119 / 714

雪虫2 10

 食事関係は任せて、オレは雪虫の口に入るものを作ろう。  大神が来たらそんな余力なんてなくなるだろうし。 「ねぇ、あの人、やけにひっついてくるのってなんなのかな」 「アルファのフェロモンが欲しいんじゃ?ここに居るアルファって君だけだし」 「そうなのかな……なんかあの人の匂いって苦手だから、あんまり傍に来て欲しくない……」  来た時にそう言っていたことを思い出し、まだムズムズする鼻を気にしながら雪虫のプリンの準備をする。 「えーと、卵は二個、牛乳はー……」  砂糖とお湯と、水と砂糖  それから器を用意して…… 「レシピ見ないの?」 「覚えてきたんで」 「ああ、立ち読みで」 「うん、一冊丸っと覚えたから、当分はバリエーションに困んないよ」  本当は駄目なこととわかっているけれど、修羅場回避のための立ち読みで覚えてしまった。  少し温めた牛乳に卵を割り入れて、覚えている手順通りに掻き混ぜて行く。口当たりが良くなるように丁寧に濾して、雪虫が喜んでくれた瞬間を想像して作っていくのが堪らなく幸せで……  食べてるところを間近で見れないのは残念だけれど、それでもこうやって食べてもらえるなら嬉しい。  相変わらず食は細いままだけど、オレが作ったお菓子ならちょっとは食べてくれるようになったから、更に嬉しい。  綺麗に濾した卵液を器に注いで、フライパンへ、 「  雪虫と番になった後、君はどうするつもり?」 「えっと  」  どうする と聞かれても、番になったらイチャイチャしながら過ごします!じゃあ駄目なんだろうか? 「先生の研究の手伝いや、捜索?に参加する のかなぁ」 「……覚悟はあるんだよね?」 「   」  覚悟 と言われて、オレを見下ろす直江の視線の硬さに、これが軽いやりとりではないと分かって背筋が伸びた。  どこまで危険かわかっているのか……と問われれば、直江達から言わせれば全然理解していないのはわかる。どう頑張っても、二十歳に満たない人間の人生経験なんか程度が知れていて……  絵空事の世界の話を実感しろと言われても、わからないとしか言えない。 「覚悟と言うか、選択肢ないし」 「俺は、君が雪虫の傍にいてくれるだけで  」 「   なん話しょん?」  途切れた会話に居心地の悪さを感じて振り返った。 「雪虫って、衝立のむこぉにおる子?」 「貴方には関係のない話です」  びっくりするほどバッサリと切り捨てて、直江はふぃとみなわから視線を逸らした。

ともだちにシェアしよう!