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雪虫2 9
「時間なんで、そろそろ行ってもらってもいいかなぁ?」
「まだもうちょいあるやん?ダメ? はぁー……せめてパートナー連れてきたらあかん?」
「駄目だねー最初に守秘義務について説明してたよねー?」
お互い笑顔のはずなのにバチバチと火花が見える気がする。
これが大人のやりとりかと眺めていると、引かない瀬能に溜息を吐いたみなわが後ろに置いてあったケーキの箱を差し出してきた。
白い箱の緑のリボン、店名を見てみると『ころぽっくる』と可愛らしい文字が見える。
「そうそうこれ、休憩に出してくれるやろか?美味しん選んできたんよぉ?しずるの好きなんもあればええんやけどねぇ」
「あ、ありがとうございます」
「気に入ったんならまた買ってくるけ、感想聞かせてな」
「えーっと……はい」
「事前に聞いとけばよかったなぁ。何が好きかなぁ?」
ケーキの種類を聞かれても答えることができるほど食べた記憶はなくて、うーんと唸りながら「チーズケーキ」とポツリと漏らす。
「焼いたやつ?生のやつ?」
「え?焦げ目があった……」
チーズケーキって言ったら一種類しかないのかと思ってたけど……
「ベイクドチーズケーキか!うちと一緒やね!美味しいとこ知っとんねん!また買うてきたるわ!」
ぱぁっと明るくなった表情はいつもの幸薄そうな雰囲気が薄れて、ともすればただはしゃいでいるだけの一般人に見える。
満面の笑みを湛えるみなわにお礼を言えばいいのか流せばいいのか、正直言ってわからなくて曖昧な顔になってしまった自覚はある。
共通点があって嬉しい みたいな感じを受けるし、エロい意味以外で歩み寄ろうとしてくれているんだろうけれども、オレにはどうしてもそれを好意的に受け入れることができなくて……
「……じゃあ、これ、冷蔵庫に入れてきます」
そう言うのが精いっぱいだった。
数が入っているからか、ずしりと感じるケーキの箱を台所の直江に手渡す。
「オレ、今日も大神さんと庭だと思うから、あとお願いしてもいいかな?」
「ああ、いいよ。休憩に出すね。ここ、美味しいって有名なところだよね」
ちょっと嬉しそうなところを見ると、直江は甘党なのかもしれない。
「そう、大神さんは少し遅れそうだって」
「時間あるなら雪虫用のプリン作っておこうかなぁ」
「そうだね」
セキの料理の手際も良かったが、直江の手際はさらに良い。直江が準備してくれると、オレの出番がなかったりするくらいだ。
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