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雪虫2 8

「しずる?しずる?  どうしたの?」  カシ カシ  と爪が滑って気持ちの悪い音がする。 「……ちょっと  ボーッとしてた」 「  びっくりした」 「ごめん、でも ぎゅっとしたくて  」  扉のに額をつけるとひんやりとした感触に、少しは頭の中がスッキリするかと思ったけれど、逆に雑念がなくなって、ただただ雪虫のことだけが頭に残った。  みなわと言う人物に、どうしてこうも警戒心を抱くのか、オレ自身がよくわからない。  独特な喋り方のせいか、  薄幸そうな出立のせいか、  やけに人の懐に入ってこようとするせいか、  考えても答えが出ない。  ……そして答えが出ないまま、その人はオレの膝の上に乗っているわけだけども! 「  降りてもらえませんか」  押し除けてソファーから立ち上がろうとするも、するりと手足のどこかが絡みついて離れない。 「なんでなん?重い?」  重いか重くないかで言われたら吹けば折れそうなこの人は軽い、でもオレの比較対象は雪虫だけなせいか、十分重かった。 「ですね、重いんで退いてください」 「つれないん?なんで?」 「興味がないからじゃないですかね」  首に回された腕を取っている間に足が絡まってくる。  太腿に尻が乗っかっているが、なんとも思わないと鬱陶しいとしか思えない。 「イケズやな?」 「意地悪ってことですか?」 「せやね」  こうやり取りしている間も懸命に手足を剥がすのに、一向に離せる気がしない。  鼻の周りでふわふわとフェロモンが舞って、苛々と顔を背けて逃げる。 「フェロモン引っ込めてくださいよ!ホント、いけずでもなんでもいいんで降りてくれ。迷惑」  ほっそりとした顔立ちの端正な顔が悲しそうに歪んで、目の縁に光るものが盛り上がる。  唇が引き結ばれて、その光るものがつぅ と頬を伝って落ちた。目の前で泣かれるとさすがにどきりと罪悪感が湧いて、押し除ける手の力を緩めてしまって……  しなだれかかられ、緩くうねる髪が肌をくすぐってくるが、ゾワゾワとした悪寒しか感じない。 「なんで駄目なん?なんでそんなに冷たいん?」  細い指先がシャツ越しに胸の上に置かれて、ひやりとした体温と、汗をかいているのかしっとりとした感触を伝えてくる。 「嘘泣きだからじゃないかな?」  オレとみなわの間に割り込んできた瀬能がさらりとそう言い、穏やかな手付きで引き剥がしてくれた。 「イケズー!」 「はいはい。若者に手を出すのは厳禁だよー」 「じゃあ先生しょうや」 「ぼくヘテロだし妻帯者なんで」  左手の薬指に嵌った指輪を見せて躱すと、瀬能は腕時計を見て上を指した。

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