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雪虫2 17

 甘い物が特別好きと言うわけではなかったけれど、美味しいチーズケーキと言って手渡されたそれが好みドンピシャで、気になっているのは確かだった。 「今日、でも、いいけど」 「お?なんや、あのチーズケーキ気に入ったんか?」  にやぁ と笑ったみなわにそう言われ、慌てて「今日なら荷物持ちできるし!それだけ!」って付け足したけれど、それはあまり効果がなかった。 「やー美味しそう!」  ぱっと嬉しそうに顔をほころばせると、みなわはオレの作った夕飯をぱくりと口に入れて美味しいと感じたことを全身で表すように体を左右に揺する。  当然だけれど、他の大人三人はそんな風に美味しいって言ってくれることはないから、ちょっと嬉しくてお盆を持つ手をもじもじとさせてしまう。 「これならいつお婿さんに行っても大丈夫やわ!大神さんもそう思わん?」  大神は僅かに顔をしかめただけで何も返事をしないままおひたしに手を伸ばす。 「相変わらずイケズやわ、先生もそう思わん?」 「そうだねぇ、これだけできるなら行けるんじゃないかな」 「そやんねぇ」  ふんふんと鼻歌を歌いそうな調子で嬉しそうに食事する姿を見ているのは楽しい。  相変わらず傍に近寄られるとなんとなくと言うか、なんと表現していいのかわからないのだけれど、落ち着かない気分になって腹の底の辺りから気分が悪くなってしまうのだけれど、手放しで褒められると言う経験がないせいか面映ゆいその感覚は嫌じゃなかった。  幸薄そうな顔をにこにことさせていると、性的な雰囲気なんか一切なくて……  これぐらいの距離感なら悪くないって思った。  夕食の片づけを終えてしまうと、オレはここにいてはいけなくなる。  一階のソファーで寝るからって訴えたこともあったけど、昼間みなわの発情フェロモンにあてられているのだから、何が起こるかわからないから駄目だ って言われて、渋々諦めることになった。  ラットになって、大事にしたくて、大切でたまらない雪虫を押さえつけて傷つけて、無理矢理犯してしまいたくなったのは、忘れてはいけないことだけれど同時に思い出したくもないほどの人生の汚点だ。 「俺はもう上に行くけど、雪虫に何か伝えることある?」 「じゃあ おやすみって、明日もまた来るからって伝えて」  傍に付き添えないオレの代わりに、セキが何くれと雪虫の世話を焼いて傍に居てくれる。

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