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雪虫2 46

「  っ ぷはっ!」  扉があるわけでも、ましてや水の中と言うわけでもなかったのに、外に出た瞬間肺の中隅々にまで酸素が入ってくる感覚がした。  地下通路の方が気温が低くて寒いと思えるほどだったのに、こちら空気の方が冷たいように思えて、喘ぐようにしてその空気を吸い込んだ。  塗りつぶされたような黒さから、それでも星の見える暗さに出ることができて膝の力が抜けたのかカクンとへたり込むと、雪虫が慌てて首を振る。 「もうちょっと、おねがい、  もうすこし」  青い光を弾く瞳がオレの肩越しに後ろを見て……  それはそうだ。  逃げようとするなら、出口に向かうのは必然なんだから。  あの二人だってここを目指しているに違いない。 「っ  わかった」  せめてこの入り口から見えない場所に と立ち上がった。けれど一度体の力が抜けてしまったからか、膝が震えてよろけそうになる。  幾ら早く足を動かそうとしても動いてはくれず、こちらを心配そうに見上げる雪虫の顔が歪んで見えた。  涼しい夜気に混ざって、蠱惑的な匂いが鼻をくすぐる。  オレが抱き締めていたためか幾分体温を取り戻した指先が頬に触れると、そこからじっとりとした熱が広がって……  限界状態だけじゃない眩暈に足がふらついた。 「ぅ、 あっ 」  植えられてずいぶんと経つのか、海風を遮るために植えられた木の根が舗装された道のレンガを押し上げていたらしい。  やばい と思った時にはもう遅くて、ふらついた足が不規則に押し上げられたレンガに引っ掛かってしまい、オレに出来たのは雪虫を固い地面に落とさないように体を捻って倒れ込むことだけだった。 「  ────っ!」 「きゃ 」  辛うじて自分は悲鳴を堪えることができたけれど、雪虫の小さな悲鳴が夜の静けさの中にやけに響く。 「 っ…………」  呻きそうになる口をなんとか引き結び、自分の出した悲鳴に驚くようにして手で口を覆う雪虫を見た。  怪我は……なさそうだ。  悲鳴を聞かれたかどうかは……正直わからない。 「雪虫」  極力抑えた声にはっとした表情でコクコクと小さく頷き返してくれる。 「ここから一人で逃げられるか?」 「っ⁉」  オレの言葉に驚いたのか、はっと見開かれた綺麗な青い色の瞳が今にも零れ落ちてしまいそうだ。  パチパチと瞬くのに合わせてオレを映して揺れるそれを見詰めていたかったけれど、駄目だ。  倒れた時は感じなかったが、ズキズキとした嫌な痛みが左足に走る。

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