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雪虫2 45

「まっすぐ」 「わかった」  荒い息の合間に答える言葉は短かったのに、雪虫は満足そうに笑って青い光を弾く両目を細める。  こんな状況じゃなきゃ、一日中覗き込んでいたい。  左、右、……と雪虫の指示は繰り返され、ある場所で「そこのくぼみ」と指が壁を指差した。  窪み?  暗い視界を目を凝らしてみると、岩の陰に隠れて確かにその奥が少し奥行きのある感じに窪んでいる。いや、窪んでいるって言うよりは、微かに空気がその先に流れ込んでいることを考えると、ここからまた通路が伸びてたのが崩れて塞がってしまっているようだった。  行き止まりのそこに戸惑っていると、雪虫が焦れるように「早く」と急かす。  仕方なくそこに入ると先程走っていた通路からは完全に死角になって…… 「しー よ」  人差し指を唇に当てながら、ぱちぱちと瞬く青い目に見据えられてただ頷くしかできない。    腕の中で、甘い 甘い 匂いが、  口の中に唾液が溜まって、ああ、捕食しなければと、  蹂躙して自分のものにしなくちゃって、 「  ────くそっ匂いが途切れた」 「  風下に逃げられたようですね」  急に聞こえた言葉に唾液が喉に詰まりそうになる。 「  向こうも私達の匂いはわかるでしょうし」  その言葉がすぐ傍で聞こえて、ぶわっと汗が噴き出した。  ここは行き止まりで、見つかれば逃げ場なんてない。  抵抗しようにも雪虫を抱えているし、正直理性も体力ももうぎりぎりだ。 「  面倒ですね、やはりあの時縊り殺しておけばよかった」  その言葉に、もう一人の男は返事を返すことはなかったけれど……  あの一瞬でオレは死ぬかもしれなかったんだって思うと、体が震え出しそうだった。  気を付けないと聞き逃してしまいそうなほどの二人の足音が聞こえなくなる頃、雪虫はまた指をすっと上げる。 「ここを出て、ひだり」 「あいつらの行った方だけど……」  声が聞こえて行った方を指差されて戸惑うと、雪虫が小さく首を振って「もう大丈夫」と妙に確信のある口調で言う。  じり と足を踏み出すけれど踏ん切りがつかずに、その動きは緩慢だった。 「大丈夫。しずるは雪虫が守るから」  小さく微笑む愛らしさは、たとえその先がマグマだって分かっていても飛び込ませるくらいには魅力的で。  オレは一つ頷いてまた駆け出した。  暗闇の中に出口である青い光を見た時、ほっとして足から力が抜けるかと思った。  けれど、雪虫の「いそいで」の言葉に背中を押されるようにしてその先に向けて足を動かす。

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