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雪虫2 50

「番に、なれた?」  時折しゃくりのように体を跳ねさせながら問いかける雪虫に、「うん」って頷き返すと嬉し気に微笑まれて、その可愛らしさに心臓が止まるんじゃないかって震えた。  白み始めた空を見上げて、ふるりと体を震わせた雪虫に体温を移すように抱き締め直す。 「……体、大丈夫か?」 「ん  平気」  短く返すその言葉が強がりなのだと、頭を上げる体力すらおぼつかない様子がオレに教える。  もう少し明るくなれば……さすがに人目のある場所で、大立ち回りをしてまで攫おうとすることはないだろう。  腕の中で、ほぅ と溜息を吐く雪虫を促して、指先を城壁の方へと向ける。 「雪虫、見えるか?」 「  ?」  差し込み始めた朝日が白い石で作られた城壁の縁を光らせる。  それが右に左に折れて…… 「  あ」  オレの胸にぐったりと凭れ掛かっていた雪虫の指が上がって、その石垣の縁をなぞるように空中に形を描いて行く。  つかたる市の城址、そこにかつて建っていた城は日本では珍しい稜堡式の……いや、星の形の城壁を持っていた。 「『星のお城』!」  自分の気に入りの絵本に出てくるものと同じ、星の形をした城跡を見てぱちん と瞬いた瞳が朝日にきらきらと煌めく。  本当は、こんなどさくさじゃなくて、もっと準備をして、もっと楽しく見せてやりたかった場所だったけれど。 「うん それから、海 な」 「うみ」  「海」「海」と繰り返す言葉は、体を起こす体力すらないとは思えないほど明るい。  海の傍とは言っても距離があって、ここから見える海は水面を反射する光ばかりでどんなものなのかわからないだろうに、それでもオレの胸に頬をつけて、嬉し気に微笑む雪虫の顔は輝いて見えた。  驚いたことに、茂みの中で動けないままになっているオレ達を見つけたのは大神だった。  へたり込んでいるために見上げた大神はまさにヒグマのようで、思わず悲鳴のような声を上げたのが面白くなかったのか、不機嫌そうに顔をしかめる。 「……呑気に青姦とはいいご身分だな」  こちらを見下ろす顔には珍しく影が差して、精彩を欠いているように見える。  乱れた髪を掻きあげながら、面倒そうに背後に向かって手を上げると、それを合図に黒服の男達がオレと雪虫を回収に来たけど、オレは腕の中で眠る自分のΩを決して手放さなかった。  研究所の一角にある診療室で、瀬能がパソコン画面に映った足の骨と右手の骨を見て、くつくつと上がりそうになる笑いを必死に喉の奥に引っ込めようとしている。

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