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落ち穂拾い的な 水谷の秘密2
青い顔の社員さん達を見ながら目の前のお造りに手を伸ばす。
「男の人 だったんですね」
隣の水谷にそう言うと、意外そうな顔をされた。
「ふぇ?そうだよ!こんな男らしい僕を掴まえて何言ってるの!」
男らしい人は、ピンクの花柄浴衣を着てウキウキしないし、セーラー服を着用したりしないと思う……
「じゃあ、あの服は?」
そう言うと水谷は食事の手を止めて真剣な面持ちでオレの方を振り返る。
「僕、気付いちゃったんだよね」
「え?」
「スカートの解放感にっ!」
あ?
真剣な顔をして何を……と思うも、はたと思い出したナニのサイズに「!」と腑に落ちる。
なるほど、水谷の体のサイズであのナニならばズボンはきついんだろう……って、どう言うことだ⁉そんなわけあってたまるかっ!
「サリエルパンツって手もあるけど、学校があるから 」
「や、だからって違う学校の制服着てちゃダメでしょ?学校は私服なんですか?」
「制服あるけど、さすがにうちの制服は着てないよぅ」
可愛らしく拗ねて見せるけれど、ナニの幻覚がちらついて全然可愛く見えない。
「え?え?だって、自校の制服があるならそっち 」
あ、いやいや、それもスカートをはいてる段階で突っ込みどころのある話だった。
「生徒と同じ制服は着ないってー!」
……ふん?
「やっぱり手本は示さないと!」
ふん!?
「あ、え、 へぇ……」
深く考えるのやめとこう。
「 ────よくもまぁ手本とはよく言うじゃないか、血まみれ刀」
飛び込んできた声にぴっと背筋を伸ばし、水谷との間を開けるとそこに大神がのそりと入り込んでくる。
「もうっ!またそれで呼ぶ!」
「不都合はないだろう?」
「恥ずかしいんだって!んもう!僕、羞恥プレイは苦手なんだよ!」
はは と珍しく上機嫌なのか小さな笑いを漏らす大神は、顎で猪口を指し示してから徳利を突き出す。
「飲むだろう?」
「えー……でも、飲んだらできなくない?」
細くて小さい指でいじいじと大神の膝をつつく姿はどこをどう見てもただの美少女だ。
「そんなことないだろう、飲め」
ぐい と差し出された徳利に、水谷はしかたなくと言った風に猪口を出す。
それに並々と酒を注いで、やはり大神はご機嫌だ。
「もしかしてもう酔ってる?ちゃんと出来るの?」
「できる。ほら飲め」
「ちょちょちょ 大神さんっ!未成年にすすめちゃダメですって!」
この場でそんな常識が通じるのか分からなかったけれど、とりあえず止めないと!
「何を言っている?」
「ふん?だから君にはすすめてないでしょ?」
二人ともきょとんとオレを見て……
え?オレが悪い感じ?
「や、だって……」
「君はジュースで我慢だよ!お酒は二十歳になってからなんだからね!」
「え、あ、じゃあ水谷さんも……」
そう言うと二人とも変な顔をして見せて……
何言ってるんだって言われているようで、座りの悪い気がしてもぞもぞと座り直す。
「僕そんなに若く見えるかな?へへ」
って赤らんで見せても、面白くない冗談は笑えない。
「もーう!煽ても何も出ないよ?あ!じゃあじゃあ!この後、わんこくんと一戦するんだけど……見せてあげよっか?」
「ふぇ⁉︎」
「おい!勝手なことを言うな」
不機嫌そうな声に飛び跳ねる。
って、え?一戦って、ナニ?
ナニ見せられるの⁉︎
「いいでしょー!ギャラリーいた方が燃えるし」
にっこにっことして、大神の膝を突く姿はなんだかやらしくも見えて……
小さな舌が艶かしく唇の端に残った酒を舐めとるのがとても扇情的だった。
「ひ 」と声を上げて思わず側の座布団で頭を覆う。
アレは……人間なんだろうか?
小鬼を背負った大神の筋肉も凄まじいものだが、それをいなす水谷の動きは早くて目で追うのが精一杯だった。
拳や足がぶつかるたびに鈍く、身をすくめたくなるような音が響いてその度に座布団を持つ手にぎゅっと力がこもる。
「あああああ、あれ、なんなの⁉︎」
オレとは逆に、食い入るように身を乗り出して二人の戦い?殴り合い?じゃれ合い?を見ている直江に尋ねると、視線を逸らさないまま「息抜きだよ」と簡潔な言葉が返る。
「昔、うちがケツモ……じゃなくて、面倒を見ていた暴走族を潰したのが水谷さんなんだって。その時に最後まで二人で殴り合っているうちに、友情が芽生えたんだってさ」
「友情……」
これほど大神に似つかわしくない言葉もない。
「んで、お互い楽しく体を動かせる機会を設けているって言うわけさ」
「や、や……でも、激しすぎません⁉︎」
「お互い、仕事で鬱憤溜まってるんだろうね。ほら、なかなか見る機会なんてないんだから、しっかり見ときなよ」
そう言ってはくれるけど、もう二人とも人間の動きじゃないよ……
「すごいよね、アルファならともかく、ベータであそこまでできるって」
呻くように言う直江もβだし、なんだったらあの二人と同じくらい強いような気がするんだけども。
オレが直江のことを投げ飛ばせたのは調子が悪かったからだろうし。
うん?
直江はβだし、大神はβだって言い張ってるし、女の子の匂いを嗅ぐのはアレだからってことで水谷のは確認してないけど、直江の言葉を考えるとβなんだろう。
……ってことは、この場の最弱がαだってことで……
座布団を持ったままバタン って倒れ込んで、子供に返ったみたいな顔をして拳を振り回している二人を眺めた。
END.
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