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苦い人生 1
ああ、なんて苦い人生なんだ。
オレ、『日田快斗 』が『土岐悌嗣 』に出会ったのは高校の入学の時、ベタな話だけれど同じクラスの隣の席になって仲良くなった。
正直に言ってしまえば、オレは一目惚れだった。
短い髪と健康的に焼けた肌、運動部らしい溌溂とした、考えることよりもまず体が動くような性格の悌嗣は、体のことで引っ込み思案だったオレを見たこともない世界に連れて行ってくれた。
……オレは、自分の体のことで酷く引け目を感じていて、人と深く付き合うなんて無理だって思っていたから、悌嗣がぐいぐいとオレの世界に入ってくるのが妙にくすぐったくて……
体のことを知られたら嫌なはずなのに、それでも自分のパーソナルスペースに入れてしまえるほど、悌嗣のことが好きだった。
オレは、Ω だ。
昔よりも理解が進んだとは言え、そう診断が降りた時に両親はずいぶんと思い悩んだらしい。
男女性の他にバース性と言う四つの性別で分けることができるこの世界の人間の中で、Ωは一番数が少なくて珍しくて、そして軽蔑の対象だった。
いや、軽蔑の対象って言うのは言い過ぎかもしれない。
かつては確かにそうだったけれど、今は人権や倫理の周知も進み、バース特区と言う目玉を掲げている市もあるくらいなのだから、昔に比べればずいぶんと偏見もないし暮らしやすくもなっている。
それでも、どうしてもなくならない奇異な物を見る目 と言うものがあって……
男でも、子供が産める。
その事実を小学校の保健の授業で聞いた日は恐ろしくて眠れなかった。
男はお婿さん、
女はお嫁さん、
男はお父さん、
女はお母さん、
そう聞いて育ったオレにその事実は恐ろしくて……
拳で腹を殴ってみたこともあったけれど、自分がΩだと言う事実がどうにかなることはなかった。
バース性を持つ人間がいるとは言っても、無性の人間から比べたらずいぶんと数の少ない話だし、普通に暮らしている分には全く関係のない話だった。
けれど……思春期になって、とうとう発情期が始まってしまって……
オレの体に合う抑制剤が見つからなくて、毎月来る発情のタイミングでは学校を休まざるを得なくなってしまっていた。
「 なぁ、なんで毎月休むんだよ!出席日数とか大丈夫なんか?俺お前と一緒に卒業したいんだけど」
屋上で温かい肉まんを半分ずつ。
それが小腹が空いた時のオレ達のおやつだった。
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