236 / 714

collector 8

  「不具合は?」 「ございません」 「ない?これだけかけ離れているのに?」 「はい。ただ付加部分につきましては薬で抑制を行わないと肥大化いたしますのでそこだけは」  そう言うと男は商人の方を向かないまま「そうか」ともう一度頷いてみせる。  長年欲していたオッドアイのΩが手に入った興奮など、あっと言う間に消し飛んでしまっていた。  それほどに、この檻の中の生き物は……   「ぅ  」  鳥籠の中のΩが呻いて身じろぐと、それに合わせてふわりと柔らかい風が頬を撫でる。 「いかがでしょうか?」 「出所は?」 「………………」  商人は一瞬言葉を詰まらせた後、「ご想像の通りでございます」と手袋を嵌めた手で額を拭う。 「あそこには別の商品を注文しておいたはずだが」 「申し訳ございません、そちらは今しばらく」  『今しばらく』  この言葉を自分が幾度繰り返したか数えようとして商人は首を振る。 「こちらは別の筋からのものでございましたが……注文通りではなかった と、言うことで」 「失敗作を俺の所に持ってきたと?」 「いえっそうではっ!先方の希望通りの性別でなかったと言うだけで!これだけの希少品、ただ処分してしまうのも」  そう申し訳なさそうに言う商人の態度が演技だと言うことを男は承知だ。  失敗作だとしても、それを補うほどに珍しいΩ。 「殿下ならばそのような些事は気になさいませんでしょう?」 「…………」  嫌な言い方だ と東洋の商人を睨む。  肯定しようと否定しようとどちらに対しても旨味はないことに、男は不愉快そうに眉間に皺を寄せる。  肯定すれば受け入れざるを得ないし、否定すれば自分の小ささを認めることになるのだから。   「  ぅ ────なに  」 「ああ、起きましたね」 「なん ここ、なに  っ⁉」 「如何なさいますか?」    そう言うと商人は懐から華美な鍵を取り出して恭しく差し出してくる。 「…………」  どちらにしても、男に否はない。  例え失敗作なのだとしても、この鳥籠の中身は自分自身を満足させるに十分なΩなのだから。    口を引き結んだまま宝石で飾られた鍵を受け取ると、それをくるりと翻しながら商人に向かって目をすがめる。   「次は、白いオメガを連れてくるんだ」    男が面白そうに笑いながら嫌味のように言う言葉に、商人は手袋を嵌めた手を胸にあてて深く頭を垂れた。 END.  

ともだちにシェアしよう!