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collector 7
「オメガの幸せは、強いアルファに望まれてこそですよ」
おどけたように笑う商人は先導の役割を果たさない赤髪の侍従を避けて廊下を歩き出す。
礼儀上では侍従の後をついて行くべきなのだろうけれど、それを無視したからと言って客が不快になることはないと商人は良く知っていた。
なぜなら、あの客の蒐集欲を満たすことができる人間はそう多くないのだから。
髪から垂れる雫を紫瞳の侍従が丁寧に拭う。
彼の珍しい瞳の色を男が特に気に入っているのは商人にも良くわかっていた。
では、本日用意したあれならばどうだろうか?
きっと、珍しさと言うだけならばこの宮に囲われているどのΩも敵わない。
「久しいな」
「はい、殿下はご健勝の御様子、大変嬉しく存じます」
この国の作法で頭を下げる商人を見遣りながら、男は喉を潤すために酒を煽る。
「本日は特別なオメガを入手いたしましたのでお持ちいたしました」
「 で?」
静かで重い言葉は無駄口を望んでいるようではなかったため、商人は合図をして見上げなくてはいけない荷物を部屋に運ばせた。
背の高い男が顎を上げなくてなならないほどの大きさのそれは、今は焦らすように布で覆われて中身は見えない。
「こちらです」
「…………」
柳眉が胡乱にしかめられる。
「ご覧ください」
するりと艶のある布の端を引っ張ると、滑らかな動きであっと言う間に滑り落ちて中身を晒す。
それは、大きな鳥籠だった。
「 ────これは」
小さく呻く言葉だけで留めたのはさすがだと商人は口の端に笑みを乗せる。
自身ですら、初めてこれを見た時には信じられずに訝しみ、疑い、驚きに取り乱したのだから。
「本物です」
その商人の言葉に反応するように、鳥籠の中の籠型のブランコに身を沈めていた体がピクリと動く。
「どう言うことだ?」
「…………オメガの 」
はて、なんと説明したらよいのだろう と商人は唇を舐めて湿らせる。
「オメガの、可能性でございます」
「可能性」と呟く男は商人の方を見ず、鳥籠の中を凝視していた。
金の瞳が大きく見開かれ、目の前のものを理解しようと忙しなく動いている。
遠慮のない視線が、薬でぐったりとしているΩの顔へ、腕へ、足へ、そしてその背後へと動く。
「これは……」
「オメガ遺伝子は奪われることを嫌います。逆に受け入れることに関しては、この通り」
「受け入れる?は……馬鹿な」
男の言葉に、商人は何も言わずにただ薄く笑う。
それが、何よりも雄弁な答えになると知って。
「…………生まれつきなのか?」
「左様でございます」
「馬鹿げたことを」
そう言うと男はやっと商人に目を遣る。
男の視線を真正面に受けてやっと、商人はこの男が酷く驚いていたのだとわかった。
探るような目に変わらない笑顔で返していると、商人の言葉を飲み込むことができたのか男は大仰に頷く。
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