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collector 6

  「…………妹の事故は、あんたが仕組んだんだろう!」  赤髪の侍従の言葉に商人は大げさなほど目を丸くし、困った風に眉尻を下げて見せた。  そうすると気弱そうな東洋の男が難癖をつけられて困り果てていると言うように見えて、赤髪の侍従は自分が何かおかしなことを言い出しているんじゃないかと戸惑うほどだった。 「妹さんの事故は偶然です、彼女が突然車道に飛び出したのは、あの時周りにいた人々が証言しているはずです」 「  っ」  バザールの一角で店番をしていた妹が突然走り出して車の前に躍り出た……  隣で店をしていた人も、傍で買い物をしていた人も、妹を止めようとした人も、何が起こったのかわからないと口をそろえて言った。  ……接客中に突然飛び上がり、何かに恐れおののきながら逃げるように走り出した と。 「その客が……あんたじゃなかったらそう思っただろう」  噛み締めた歯の隙間から呻くような声が漏れる。 「考えすぎでは?」  そう言うとますますそのエメラルドのような瞳が燃え盛って輝きを増して……  なるほど、コレクションに加えたいと言われただけはある美しさだ と商人は胸中で頷く。 「私はただあそこで買い物をして、目の前で起こった不幸な事故に何か出来ることはないかと、良心から貴男に声をかけただけですよ」 「妹を脅したんだろう!」 「脅すも何も、隣の店員だって普通のやり取りしかしてなかったと証言したじゃないですか」  ぐ と言葉に詰まった。  バザールの店の隣は親の代からの顔なじみで、その人となりは十分に承知している。  けれど、妹はこの男から代金を受け取った瞬間、それを投げ出して駆けていったと聞いた。 「…………っ」  又聞きした情報と推測だけではそれ以上は言い募ることができず、赤髪の侍従は悔し気に唇を噛んで商人を睨みつける。 「妹さんは貴男の給金で無事手術を終えて退院したそうじゃないですか」 「   っ」 「妹さんは元気になり、私は紹介料が頂け、殿下は満足なされ、貴男は贅を尽くしたここで安穏と生活できる。良いこと尽くしでしょう?」 「な  っ」 「どちらにしても、貴男は殿下のようなアルファの番になれて幸福では?」 「何をっ  」  商人は自分の言葉が彼の神経を逆撫でしたのだと承知で微笑んだ。 「この世に殿下より強いアルファなんておりませんよ?」  ひ と赤髪の侍従の喉が鳴り、怒りで言葉を失ったのだと知らしめる。

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