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落ち穂拾い的な 指輪と約束
目元に青あざを作った相良は、相変わらずのしまりのないへらへらとした笑いでオレの前に立っている。
無視してやろうかと思ったが、それはそれで付きまとわれて業務に支障をきたしてもたまらないから、しかたなく大神に許可を求めてから話を聞くことにした。
「なんだ?」
「あの、ごめ、ごめんなさい」
「謝るってことは何が悪かったのか理解して、そのことに対してもうしないって思っていいんだよな?」
強めに言うと、「うん」って返す割には視線がはっきりとこちらを見ない。
「あ?」
「あ、すみません、もう浮気しません」
相良の悪癖なんて今更だと思うのに、年に何回かこんなやり取りをするのにいい加減疲れを覚えて来ていた。
「そんなにあっちこっち行きたいなら、オレとの関係は解消でいいだろう?」
「やっ!それはやだ!」
聞き分けのない子供のように縋って首を振るから……
今度こそはと信じてしまいそうになる。
「だからっ今度は本気だってことで、これ……買ってきた」
それなりの給料を貰っているのに、相良の服装は出会った時と変わらない。
草臥れた服のポケットから小さな箱を取り出して、それをオレに手渡してくる。
その小さな箱に何が入っているかなんて、開けなくてもわかる。
「…………」
「もらってくれる?」
「なん で、こんな 」
「嫌か?」
「 っそんなこと言ってない」
でも、触れたら火傷するんじゃないかって思ってしまって、なかなか手を出せずにいると、相良がぱっと手を取ってくる。
「はめていい?」
大神を待たしているのだから、用事をさっさと終わらせなければいけないのに、どうしてだかもじもじとしてしまって体は動いてはくれなかった。
そんなオレに焦れたのか、相良は中にあったリングの内の一つを摘まんでオレの指に宛がった。
「────……あれ?入らない」
幾らぎゅっとしても、明らかに無理だ。
関節で止まってしまった銀色のリングに二人の視線が集まる。
「あ、れ?」
「っ 当たり前だろ!こんな細いの!」
「えっ や 細いから 入ると……」
「だからって女じゃないんだからこれはっ 」
「あ!じゃあさ、じゃあさ」
もう一個のリングを取り出すと、それはオレの指にぴったりだった。
あぶれてしまった最初のリングを自分の小指に嵌めて、満足そうにオレを見る。
「これでいいだろ?俺、天才!」
「なんでピンキーなんだ。取り替えて貰いに 」
「コレはコレで思い出だろ?十年したら、また買いに行こ。んで、また次の十年後にはまた違うの買いに行こ」
それは、それだけ長くいてくれると言う意味でいいのか……
あっさり他の女について行くような男の約束なんて、信じる価値なんてないって思うのに、遠い先の約束が何だか嬉しくて……
「 そんなに沢山つけてどうするんだ」
「両手で百年か、足にもつける?」
「 勝手にしろ」
そう言ってやると相良は嬉しそうに笑い、銀色のリングのはまった小指を差し出して「約束な」って笑って見せた。
END.
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