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落ち穂拾い的な Ω
ふんふんと鼻歌を歌いながら資料の整理をするしずるを、瀬能が胡乱気に見遣る。
「ご機嫌だね」
「そりゃ、もう!」
いつもは手伝いを頼まれると、渋々と言った雰囲気がちらついていたが、今日は瀬能の指示にも弾みながら答える具合だ。
「雪虫とやっと番になれたので~」
「あの大騒動のあとで元気だねぇ」
「そりゃ、番ですからね~」
「番になったからって、そこまで上機嫌になるものかな」
「そりゃ、無性の先生にはわかんないからだよ」
これもバースハラスメントなのだろうかと瀬能は渋い顔をしながら、段ボールを開いて中を覗く。
「自分の番が取られることがないって言うのは、こんなにも気持ちの晴れるものなんですね~」
「は?」
「は?」の声はいつもの冗談を含ませたような声とは程遠く、思わずしずるは書類整理の手を止める。
「番になったオメガはもう他のアルファにちょっかい出されたりしないんですよね?」
「君、何言ってんの?」
「えっっ!?」
「番契約を結んで変わるのは、他のアルファにフェロモンを感知されなくなる、他のアルファに性的に触れられると拒絶反応が出るってことだけで、物理的に蓋ができるわけじゃないから手放しで安心するのはいかがなものかと」
「ええ!?」
バサバサ と揃えた書類を放り出して、胸倉でも掴むんじゃないかって勢いで詰め寄ってくるしずるを瀬能はさらりとかわす。
「フェロモンを感じない、他のアルファに性的に触れられるとショック症状を起こす。僕ら無性からしてみればだから?って部分はあるんだよね。アルファによっては、そうやってショック状態のオメガを抱くのが楽しいって人もいるし、後はまぁ……鎮静剤と吐き気止めで浮気できなくもないしね」
「 っ」
しずるの真っ青な顔を見て、瀬能は肩をすくめた。
「レイプしようと思えばレイプできてしまえるんだよ。フェロモン云々言っても、この世界の大多数の人間はフェロモンなんて関係なくセックスしてるんだから」
「う……」
「現に、オメガがレイプされてショック症状を起こして亡くなった、なんて話もあるわけで」
どんどん顔色が悪くなって行くしずるに、瀬能は溜息を漏らす。
「雪虫は研究所にいるんだから安心したら?」
「う、あ、でも、っ」
「まぁ絶対ってことは約束できないけど、他よりはそう言った点では安全だと思うよ?」
そう言ってやるも、しずるはそわそわと落ち着かない。
むしろ先ほどまできちんとしていた書類整理すらまともにできていない様子で……
「気になるなら顔見に行っておいでよ」
堪らず瀬能はそうため息交じりに言葉を漏らした。
END.
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