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晴と雨の××× 1

 この世に男女以外の性別、つまりαβΩと言う第二の性であるバース性が周知されるようになって久しい。  今では義務として出生時に検査をして自分がどのバース性に属しているのか、もしくは属していない無性なのかを明確にしなくてはならない。   「……っさむ」  思わず言葉が口を突いて出たのは、海風が思いの外きつかったからだ。  慣れない潮の臭いを含ませた風は想像していたよりもじっとりと重く、陰気で、冷たい。  南国の海をイメージしていたわけではないけれど、それでも引っ越す前の地域よりも温暖な気候のはずだった。  空気が冷たい理由ははっきりと分かる。  見上げた向こう、風に押されてどんどん近づいてくるのは光を通すことのない真っ黒な雨雲だ。  今朝、携帯電話でこの地域の天気を調べた時には晴天のマークがあったし、降水確率はゼロだった。  けれど…… 「よっと 」  眼鏡にぽつ と雫が当たったのを感じて、さっと荷物の中から折り畳み傘を取り出して広げる。  途端にぱらぱらと音が響き始めて、潮の臭いの代わりに雨が降った際の独特のむっとするような地面の臭いが立ち上った。 「備えよ、常に……だな」  傘を傾けて、斜に構えたような気持ちで空を睨む。  視線の先にはわずかに残されていた青空が覆い隠されるところで……  幾度も見た景色に溜息が出る。  この俺、林原虎太郎が行く先はこんなふうに雨が降るって決まっているんだ。  産まれそうになった瞬間、晴天がいきなり雨に変わったそうだ。  行事は俺が参加するものは尽く雨で良くて曇りくらい、出かければ幾らお天気のお姉さんが「傘はいらない一日になるでしょう」って言った所で無駄だった。  俺の生活は、そんな状態なんだ。  住んでた地域がたまたまかもしれない なんて儚い希望を抱いていたけれど、いきなりの雨にコンビニに傘を買いに走る人たちを見ているとそう言うのではなく、問題は俺なんだって思い知る。 「えっと、ここが……」  天青海岸の表示を確認して、それから携帯電話の地図アプリに視線を落とす。  目的地である赤い旗が立っている場所はそう遠くなさそうでほっと肩を撫で下ろした。 「バース性の……研究所とか言ってたっけか?」  地図には長ったらしい名前が書いてあるが、要はこのバース性の為にいろいろなシステムが試験的に投入されているこの地方都市である「つかたる市」の要になる場所だと言うのはわかる。  俺は、これからそこに行かなくてはならない。  それが、俺がここに引っ越してきた二つの理由の内の一つなのだから。    

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