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晴と雨の××× 2
もう一つは口に出したくもないが、ここに引っ越してた以上もうどうでもいいことだろう。
「……ここ?」
その研究所は奇妙な外観をしていた。
まるで子供がブロックででたらめに積み上げたような、そんな形をしている。
「…………」
思わずその異様さに立ちすくんで、門の傍でおろおろとしていると玄関を通りかかった白衣の人と目が合った。
年は……俺と同じくらい?
高校生なのかなって、思うけど……白衣を着ているせいか大人びて見えて良くはわからなかった。
俺を見て首を傾げた後、雨の中だと言うのにこちらに向かって走り寄ってくる。
「林原虎太郎さんですか?」
「えっ 」
いきなり名前を言い当てられて、なんとなく気持ち悪い思いをしているのがバレたのか、その人は胸のカードをこちらへ見せて「阿川といいます」と頭を下げた。
「瀬能先生から話は聞いています、ご案内します」
にこにこと笑顔で言われて促されると……逆らうことができずに渋々と後をついて行くことになる。
「申し訳ないのですが、こちらで記帳とタグをつけて頂くことになります」
「阿川さん ?は、この研究所の人なんですか?」
「正確にはまだです。瀬能先生のざつよ……じゃなかった、手伝いをさせてもらっています」
白衣の背中を見ながら、自分と年がそう変わらないのにこんな場所で将来を見越して働いているのだから、できる人間なんだろう とぼんやりと思う。
「少しぐるぐるしますので、気持ち悪くなったら教えてください」
「え?」
「この建物、ちょっと傾斜がおかしいところもあって、初めての人は三半規管がおかしくなることがあるんですよ」
苦笑いを浮かべる辺り、この人も経験があるのかもしれない。
白い壁のために明るい廊下を歩いて行くと、中庭の向こうの廊下に何人かの子供が通りかかるのが見えた。
それは研究所と聞いて身構えていた自分には驚きの光景で、思わず足を止めてそちらを覗く。
「ああ、この研究所はシェルターと繋がっていて、小さな子供がいたりもするんですよ」
「そ なんですか……」
研究所と言うからてっきり、部外者立ち入り絶対厳禁的な厳しい場所かと思っていただけに、拍子抜けしてわいわいと楽しそうな子供達を眺めた。
「さ、もう少し歩くことになります」
促されてまた後について行くけれど、同じような角を曲がって曲がって曲がって……方向感覚はすでにないし、自分がどこから来たのかも良くわからなくなってしまって……
まるで迷路の中を歩いているような居心地の悪さと言うか、不快感に顔をしかめた。
「少し休みましょうか?」
「え?」
「気持ち悪くなっているんじゃないかなって」
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