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落ち穂拾い的な 人は成長する生き物です
写真を見て、虎太郎は目を擦った。
真っ赤に染まった花畑で、顔を腫れあがらせて這う這うの体の特攻服を着た男達が並んでいるのが映っている。
その中央でニッコリ笑顔でダブルピースをしている虎徹と、後ろに小さく映り込んでいるのはどう考えても一般人とは思えない風体のあの大神とか言う男だ。
あとは救急箱を持っている人が一人、無事な姿でいるけれど、この惨状の人々を膝に抱えられるサイズの救急箱でどうにかできるようには思えない。
「えーっと」
どこから突っ込んだものかと考えていると、手の中から写真が消えた。
「もーっ!こたくんナニ見てるのえっち!」
「いや……ナニも何も……」
なんだこの絵面……
「これはねぇわんこくんと初めて記念の写真だよぉ」
「言い方」
「あ!初めて出会って殴り合った日の写真だよ」
「そっか」
大神が聞いていたら苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう。
「殴り合ったにしちゃ虎徹は無傷だな」
「当たらなかったからね」
「殴り合いとは?」
小さくてはっきりとは見えないけれど、大神の方はそれなりに負傷しているように見える。
「僕とわんこくんは相性が悪いんだよ。わんこくんの拳は僕に当たらないけど、僕はわんこくんを倒しきるスタミナがなくて…」
ムキっと力こぶを作るように出された腕は俺よりも細い。
なるほど、この腕で幾ら殴っても大神は痛くも痒くもなさそうだ。
「って恥ずかしい話させないでよ!もぉ!」
そう言って照れてみせるけれど……どこに照れ要素があるのかさっぱりだ。
「って言うかって言いたいのは俺のほうだ。なんだこれ」
指示したのは中央でダブルピースをしている虎徹だ。
……なんと言うか、変わってない……と言うか、なんなら写真の中の方が大人びて見えたりもする。
「んもー!十年くらい前の写真なんだから、今と違って当然でしょっ何この羞恥プレイっ」
って大袈裟に恥ずかしがるけど……いやいや、本当に、なんで若返ってるの?
「ほらほら!これがつっちゃんだよ?」
つっちゃんとは、俺の前の高校の体育教師で虎徹の族?グループ?かなんかの特攻隊長だったとかなんとからしいんだけど……こちらは面影すらないくらい尖りまくってて、説明されないとわからないくらいだ。
「んで、これが翔ちゃんで、今はお医者様かなぁ?手当てが上手だからよく助けてもらってたんだ」
「……へぇ」
もうそれくらいしか感想が出てこない。
「……なぁ虎徹」
「うん?」
「お前、このまま若返って赤ん坊に戻ったりしないよな?」
「ナニソレ」
十年でこれだと、あと二十年もしたらおぎゃあと言いそうだ。
「こたくん!人間は成長する生き物なんだよ⁉」
「あ、はい」
「だから、こたくんが望んでくれるなら、僕はわんこくんくらい大きくなれそうな気がするんだ!」
「いや、いいです」
「なんで⁉」
なんで……も何も……
体が大きくなったら比例して×××も大きくなるだろうがよ。
「ゴリラは五センチだって」
「何の話だよ!」
「ナニの話だよ?」
きゅるん と返されて……肩の力が抜けた。
「あーあ。もういいよ」
そう言いながら、虎徹からもう一度写真を取り上げてジャガイモのような顔の男達を眺める。
「…………こいつ」
大神と共に後ろに小さく映っている男は……
堅気では絶対に出せないあの鋭利な視線を思い出してぶるりと身震いをした。
END.
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