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落ち穂拾い的な 平伏す

「    平伏せ」  しずるは「んぎっ」とへしゃげた声を上げて地面に突っ伏した。  その目の傍で、艶のあるローファーがくるくるとダンスを踊っている。 「ほらほらほらーおっきして!じゃないとただの標的だよ?」 「わ、か、って……」  と、返事をするけれど、体中が震えて言うことを聞かない。 「ほ、ら!顔を上げてごらんよ?」  そう言うも、上げたらその先はスカートの中だ。  しずるは顔を青くしてぶるぶると首を振る。  何が悲しくて男としての自信を無くしそうなことをしないとならないのか……と、芝生を間近で睨みながら呻く。 「んもー!可愛くないなぁ」 「オレに可愛さはいらないですから、せめて運動に適した格好してくださいよ!」  股間の解放感と言うなら、緩いハーフパンツやサリエルパンツで十分なはずだ。  なぜあえてひらひらしたセーラー服なのか、しずるは疑問だった。 「うん?僕のこれはぁー……趣味!」  だろうな、としずるは胸中で相槌を打つ。 「じゃなくてぇ、君をヤっちまわないようにするための服だよ?」 「へ⁉」 「スカートが捲れないように、伸縮のない生地で動きにくいように、ローファーで運動の邪魔をして……これ全部君のためなんだよぉ?」  声だけで、しずるは虎徹がぷっくりと頬を膨らませているんだろうなと理解する。  けれど、虎徹の言葉に感謝する気は起きなくて……もういっそのこと拘束服でも着ててくれればいいのに と心の中で呟いた。 「君は、SM趣味があるの?」 「心の中を読まないで下さいよっ」  タイミングのいい返事に、虎徹が心を読めるのだと言われても信じてしまいそうだ。 「何をしている?」  響きのいい低い声は、誰かと問いかける前に持ち主がわかってしまい、しずるは顔を上げることを諦めてパタリと地面に頬をつけた。 「やぁ、わんこくん!こたくんが検査の間は暇だからね、寸暇を惜しんで特訓中さ」 「なんだ、てっきり昼寝をしているのかと」 「んふふ!僕たちも横になる?わんこくんの上だと気持ち良く寝れそう」 「硬いだけだ」 「硬いのがいいんでしょ?それが気持ちイイんだよ?」 「そう言うのはそっちだけでやってくれ」  うんざりしたような声にけたけたと屈託のない笑い声が続く。 「んー。こたくんの検査はまだかなぁ」 「知らん、気になるなら聞いてこい」 「んも!つれないなぁ……まぁ、それくらいがいいよね?例えわんこくんでも、こたくんに興味を持つなら  」  語尾に、さっと冷たい空気が含まれていたかのように緊張が走る。 「お前を敵に回す気はない」 「  うん、僕は君とならいつか本気でやり合えると信じてるんだ」  大神の目に、昏い光を湛えてその時を待ち望んでいるかのような虎徹の冷ややかな笑みが映った。 「……ガトリングを向けられて笑顔で突っ込んでいける奴とやり合う気はないのだが?」 「ええっ!あれはだって……わんこくんも大興奮だったでしょ?ああ言うの好きなクセにぃ」 「お前の趣味といっしょにするな」 「んふふ!嫌いじゃないくせに~」  軽口にふっと空気が緩んで、しずるははぁっと大きく息を吐く。  押さえつけられるようなプレッシャーから解放されて、地面に這いずったままそろそろと距離を取ろうと匍匐前進で動こうとして…… 「平伏せ」  硬質な声に再び地面へと倒れ込むのだった。 END.

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