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落ち穂拾い的な 幸せになりましょう同盟健在
「さぁ!しずる!雪虫!第十八回、幸せになりましょう同盟の定例会議のお時間です!」
そうセキが高らかに宣言すると、食堂にいた何人かがちらりと視線を向けて「またなんか騒いでる」的な目を向けてくる。
オレは慌ててセキを座らせ、周りにぺこぺこと頭を下げてから体を小さくして座った。
「声、大きいって」
「宣言はっ!はっきりとしなきゃ!」
「だからでかいって」
それでなくとも、セキもオレも、ここでは目立つ存在だって言うのに……
いや、隣に座っている雪虫も だ。
柔らかなショールに包まれて、ニコニコとしている雪虫を見ているとそれだけで幸せなんだから、もうこの幸せになりましょう同盟は解散してもいい気がする。
「俺はまだ幸せになってないからねっ」
「ええーこの間だって、大神さんと海外かどっか旅行行ってただろ?」
「…………えへ」
セキはその時のことを思い出したのか、目元をぽっと赤らめてもじもじとして……
ナニを思い出しているのか口の端から涎が垂れている。
「もう、幸せになりました同盟でいいだろ?」
「しずる、幸せ?」
「ん?雪虫が隣にいるんだから幸せに決まってるだろ?」
ちょいちょいと、銀に近い金髪を撫でてやるとくすぐったそうに微笑むから、オレはきっとこれ以上ないくらい幸せ者だ。
「いやいやいや!まだ噛んでもらってないし!」
「ベータとオメガで噛む噛まないの話って不毛だと思うけども?」
「じゃあっせめて種付けしてほし むぐっ」
大声でなんてこと言うんだと、大慌てで口を塞ぐ。
「……あーあ、旅行中、ゴムにアナ開けておくんだった!」
「ゴム?アナ?」
きょとんと尋ね返す雪虫はゴムが何なのか、ナニのために必要なのか、そしてアナがどして開けておかなくてはいけないのか、知ってはいないようだった。
研究所に居を移して……Ωが多いせいか雪虫の世界はいろいろと広がっているけれど、さすがにそこまで話せる交友関係はできていないようでほっとする。
「 こんにちは」
声をかけられて顔を上げると、盆を持った林原だ。
遅めの昼食だな と思いながら、水谷がいないか見回すけれどその姿はなかった。
「こんにちは!お昼です?」
「うん、虎徹と揉めてたら遅くなって……」
はは と笑うけれど、水谷と揉めて無傷でいるのだからこの人は本当にすごい人だと思う。
「騒がしくてもいいなら、ここどうぞ」
テーブルを指すと、頷いてそこに腰を落ち着ける。
オレと同じような細っこい体に、ガリ勉かなって思わせるような分厚い眼鏡……全然強そうには見えないのに、水谷はこの人のことを一目置いているようだ。
「話を中断させちゃった?」
「いえ、……中断していい話だったんで」
むしろいいタイミングだったと苦笑した。
「水谷さんと揉めたって、どうしたんです?」
「ん?あー……いつものアレだよ」
林原ははっきり口に出しにくいのかそう言って、オレが察するのを祈っているようだ。
もちろん、分かる。
どっちが入れるかでもめてる なんて口に出したくはないだろう。
「相変わらず平行線なんですね」
「そうっ相変わらず頑固なヤツ!」
そう言う林原に、ふと尋ねてみた。
「いつからの付き合いなんですか?出会いとか気になります」
「え?……そんな大したことなくて……虎徹が教育実習で高校に来て、不良に絡まれて、俺のせいで脱獄犯に襲われたりなんかしてたら公開告白しちゃって……」
「いろいろ突っ込んで聞きたいんですけど」
「なんやかんやで今に至る」
「はしょりましたねー」
とは言え、ノロケ?を聞かされてもなぁと思うので、これはこれで良かったのかもしれないと溜め息を吐く。
なんやかんやと話を聞いていたら、また水谷が上から降ってくるかもしれないからだ。
「詳しく聞きます?」
「いえ、いいです」
気にはなるけど、触らぬ神に祟りなし だ。
END.
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