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落ち穂拾い的な 彼

「はじめまして、東条です」  そう挨拶をして向かい合った人は夏の匂いがした。 「阿川です、よろしくお願いします」 「身内のことで挨拶が遅れて申し訳ない」 「いえ、お話は聞いていましたから。お悔やみ申し上げます」  自分のような若造にそんなことを言われて困った顔をするかと思ったけれど、彼は柔らかく笑ってありがとうと返してくれる。 「大伯父も随分年だったからね、春までもたないって言われてたにしては頑張ったよ」  そう言って夏の日差しで白く輝く窓の外を眩しそうに眺めた。  けれど、わずかに滲む憐憫さに……  何か気の利いた言葉をかけようと思うけれど、人生経験の知れているオレがかけられる言葉なんてないことに気づく。 「えっと……すみません……うまい言葉が見つからなくて……」 「ああ、ごめんごめん、違うんだ。よく面倒を見て貰っていたから、どうしても感傷的になっちゃって」    苦笑になんと返していいのかは分からなかったけれど、幸いなことに彼はこれ以上その話を続ける気はなかったようだ。  休んでいた間の簡単な報告を受け取ると、さっさと自分の部屋へ向かってしまった。 「阿川くんは、捜索の方に手を貸してくれるそうだけれど?」 「はい」  入り組んだ迷路のような研究所の中を歩きながら彼は尋ねかけてくる。 「……まだ、若いのに……」  言葉が言い淀む。  どうしてそんな仕事に?と尋ねたいのだろうかと思い、その先を急かさずにいた。 「いや、そうだった、君の番はあの子だったね」 「   」  あの子 が、番である雪虫を指しているのはわかりきったことだったけれど、それでも様子を窺うために答えずにいた。  この人は行方不明になったΩ達の捜索をしているのだから、雪虫のことを知っていて当然だ。  だけれども……なんとなく含む雰囲気に、言葉を安易に出すことができない。 「……正直、行方不明になったオメガ達の発見率は高くない」 「それは……オメガ達が見つかりたくないからですか?」  それとも、Ω達が見つけることができないような状態だと言いたいのだろうか?  だから、そんなきな臭いものにこの年でどうして関わることになったのか聞きたかったのか? 「見つかりたくない ならいいけどね。この世はオメガには生きにくいよ」 「それは、オメガだからじゃないと思います」    第二性の中でも特に少ないΩは、すべての人口から考えればわずかだ。  それにすべての不幸が集中しているような言い方は好きじゃない。  生きにくさがΩのものとばかりの物言いは間違っている。 「はは」  無遠慮に睨み上げたオレを見て、彼は肩をすくめるようにして笑った。 END.  

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