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落ち穂拾い的な 行方不明者の多さ

 渡されたファイルを見て……  しずるはその分厚さに怯んで瀬能をちらりと見た。 「ってことでその中の写真全部覚えてね」  なんてことないように言われて、ズシリと重いそれを投げつけたくなったしずるは、深呼吸をしてその衝動を紛らわせる。 「まぁ……覚えるのは難しいことじゃないですけど」  だからと言って、これがすべて行方不明になっているΩだと聞かされると憂鬱にはなってしまう。  一人一ページと言うわけではない。  なのにこれだけの枚数があると言うことは、それだけの人数のΩが行方不明となって見つかっていないと言うことで……  自身の番でもある雪虫も、この中にいたのかもしれないと思うと落ち着かないような、焦燥感に駆られるような気分になって、しずるはイライラとしながら表紙を捲る。  最初のページは、見ただけで古いと分かるものだ。  髪型や服装、写真自体の雰囲気が、自分の産まれる前のものだと物語っている。 「……こんな長い間、見つかってないんですか?」 「うん」 「こんなにたくさん……」 「それでも、オメガだってわかった人だけだからね。昔なんかは検査の正確さもいまいちだったし、もっといたかもしれない」 「……ここにデータがあるってことは、まだ探してるってことですよね」    中には、自分の番が行方不明になった人もいたはずだ と、しずるは雪虫が誘拐された時を思い出して身を震わせる。  ほんのわずかな時間でも離れると不安だと言うのに、それが先の見えない長い時間続くと考えただけで震え出しそうで、一旦ファイルから視線を逸らして気分を変えた。 「そりゃぁ……何年経ったからって諦められるものでもないだろう?」 「……はい」 「今でもマメに問い合わせてくる人もいるよ、ほら、この人だ。この前も何か進展がなかったか連絡きてただろう?」 「あ、はい……あの人か」  『新名倫』と書かれた名前の場所にある写真は、やはり随分と古臭く見える。  少し気の弱そうな、けれどΩらしい線の細い少年は高校で発情を迎えた直後、家から消えたらしい。  それ以降、ぱったりと消息が掴めておらず…… 「幼馴染って言ってたかな。……でもきっと、番になりたかった相手なんだと思うよ」 「…………」 「見つかるといいけどね」  雪虫が誘拐されて、自分もそうなっていたかもしれないと、しずるは他人事と思えずに唇を噛む。 「警察と協力して……まぁ、僕達は探すしかできないさ。そっちの担当にはまた紹介するから、それまでに覚えておくように」 「あ、お休みされてるんですよね」 「うん、身内に不幸があったって連絡が来てたね」  これから仕事上でやり取りをすることになる相手のことを考えて、しずるは落ち着かない気持ちになった。 END.  

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