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雪虫3 1

 潮の香りを微かに感じたけれど、つかたる市は海の傍にあるためにはっきりとした場所はわからなかった。  目隠しをされていたためにここがどこだかわからず、不安なまま建物にはいる。  そこでやっと目隠しを外されて……雰囲気に身をすくませた。  薄暗い、……新しくはない倉庫……と、言えばいいのかわからない場所だった。  広いはずなのに大きな箱が高く積まれているために圧迫感があって、明かりは点いているのに光量が足りないせいで建物の中全体が薄暗く、箱の影は闇に溶け込んでいる。 「ここ、は」 「聞かない方が良いよ」  簡潔に答える直江の言葉がすべてを物語っている。  目隠しをして連れて来られたことも、良心から来る心遣いなんだってわかってる。  だって、この先には……  迷路ように置かれた箱を縫って進むと数人の黒服の男がこちらに視線を向ける。  直江を見ると頭を下げて挨拶をし、こちらが何か言う前にさっと床の一部を弄ってからその場所を譲った。  そこには、隠された地下への入り口がぽっかりと穴を開けていた。 「引き続き警戒を」 「はい」  短い直江の言葉に男達は丁寧に頭を下げる。  屈強な男に頭を下げられる居心地の悪さを感じながら、なんの躊躇いもなく地下に向かって進む直江のあとへついて行く。  ……と、地下はオレが思っているよりも幾分明るく、目を細めて調節しなくてはならなかった。 「ああ、来たんだね」  にこにこと振り返ったのは瀬能で……  その隣に大神の姿が見える。  強い光源のせいでその背中が真っ暗で、まるで死神か何かのように思えて立ち竦んだ。 「  ……ぅ」  けれど、それもわずかな呻き声にかき消され、呼ばれる前にそちらへと駆け寄る。 「…………」  地下は上ほど広くなくて、ぱっと見渡せるほどの広さだ。  幾つか物は置かれてはいたけれど全体的にがらんとしていて、その中に椅子が置かれて一人の男が座って……いや、括りつけられていた。  一目見ただけで随分と痛めつけられているのだと分かる姿に、直視できずに思わず視線を逸らす。 「あ……の……」  勢いよく近寄ってはみたものの、そこにあるのはオレが知っている正常な世界とは程遠い雰囲気だ。 「……っ」  オレが漏らした声に反応したのか、椅子に括りつけられている男……いや、みなわがわずかに首を上げる。  その顔は体同様、酷く殴られたのか紫に腫れた皮膚とこびりついた血で汚れていて、思わず息を飲んで瀬能を振り返った。   「ちゃんと生きてるよ?」 「あ、当たり前でしょう⁉」  死んでいてたまるかと怒鳴り返すと、胡散臭い微笑みのまま瀬能は軽く肩をすくめてみせる。

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