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狼と少年 1

 普段、仕事での会食以外は片手間に食事を済ませ、特に頓着を示さない大神が珍しく手を留めて直江に問いかけた。 「これは?」 「しずる君の差し入れですよ、雪虫用にピーナツクリームを作ったけど多すぎたからと、サンドイッチにして持ってきてくれたんです」 「そうか」  手の中の薄茶色のクリームの挟まったサンドイッチに目を遣ってから、大神はもう一度「そうか」と繰り返す。  いつもならば「何をやっているんだ」とぼやくだろうに、今回はそれが無かった。 「気に入りましたか?」 「…………いや」  素っ気なく返して再び書類を取り上げる姿を見て、直江は一言「電話を掛けてきます」と断ってから部屋の外に出る。  扉の向こうで仕事に勤しんでいる主を軽く振り返って溜息を吐いた。 「気に入ったら気に入ったって言えばいいのになぁ、素直じゃないんだから」  やれやれと直江は溜息を吐き、しずるを呼び出してピーナッツクリームをもっと持ってくるようにと告げる。  電話の向こうから何やら不貞腐れた気配が漂ってきたけれど、しずるの渋々「わかりました」と言う呻き声のような返事を聞いて直江は満足そうに笑った。  大神のわずかな変化に注意を払い、先回りして要望を満たす行為は直江の秘書としての自尊心を大いに満たす。 「──── あ、直江さん」    名を呼ばれて振り返るとスーツ姿のセキがこちらに歩いてくるところだ。  スーツを着るようになってだいぶたつと言うのに、それでもスーツに着られている感が抜けないのはΩらしい愛らしい顔立ちと華奢な体つきのせいだろう。 「大神さんは中?報告がしたいんだけど……」 「ええ、いらっしゃいますよ」  そう言って近づいてくるセキに向けて直江は目を眇める。 「……」 「な、なに……」  視線が何かを追うようにつぃと動いてセキの頭から爪先までを撫で廻す。 「え、えと、何か変?」 「いや、入って」  改めてセキの顔をまじまじと見てから、直江はノックをして扉を開いて中へと促した。 「あれ?直江さんは?」 「ずらせて一時間ですから」 「え⁉」    短く告げて機嫌を損ねたのかと思わせるほど勢いよく扉を閉めてしまう。  あまりの素っ気なさにセキは戸惑ったものの、紙を捲る音に促されるように飴色のデスクを振り返った。 「……大神さん」 「なんの用だ」  視線は捲られる書類に注がれたまま動かない。   「マッチングが終わったから……報告に……」  ふかふかとした絨毯を踏みながらデスクへと近づく。  昔は高そうな絨毯を汚すことに怯えていたはずなのに、今では土足でもすいすいと進むようになっていた。  

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