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落ち穂拾い的な 店員はいない

 爪先に落ちたメモにはっとした直江はしずるの方を見た。  しずる自身、それが落ちたことに驚いているようでぽかんとした顔のままだ。 「このハンカチは?」 「この店の店員さんが貸してくれて……男の人の」 「男?」  さっと見るが店の前から見える店員は女で…… 「この店に男の従業員はいないはずだけど」 「えっ」  二人の……と言うよりはセキの立ち寄る範囲の店は調べつくされていた。  大神はどこまで過保護なのかと直江は思っていたけれど、こうして地面に落ちたお化けの形のメモを見て、自分の考えが軽かったことを思い知らされる。 「……直江さん、コレ……」 「触らないで」  そう言うと自らのハンカチを取り出してさっとメモを取り上げる。  季節になればどこにでも売っているのだろうと思わせる、そんなありきたりな物だったけれど、問題はそのモチーフだ。 「……」 「それって  仙内の  」  気づいたらしいしずるの不安そうな顔と店を見比べる。  自分達がこれに気づいた段階で、ハンカチを渡してきた人間が店にいないのはわかりきっていることだった。  そんな相手ならここまで手こずってはいない。 「いまさら騒ぎ立てたところで……か」  店にいる女性従業員はきっと何が起こったかもわからないし、気づいてもいないだろう。 「そのハンカチも回収するよ」 「はい」 「一体何があったのか、説明してもらうからね」 「……はい。って言っても何もないですよ、セキが泣いてたらハンカチを差し出されただけで」 「……」  しずるは摘まみ上げていたハンカチをそっと広げてみる。  そのハンカチもどこにでもありそうな柄の入ったもので、ありきたりでなんの特徴もない。  どこで作られたか、とこで売られていたか調べることは簡単だろうが、買った人物を追いかけるのは難しい代物だった。 「何かのアピールか……?」  その気になれば、あっさりとこの二人に手を出すことができるのだ……と。 「……とにかく、一緒に来て貰うよ」 「はい」  直江の雰囲気を察してか、しずるの表情もどことなく硬い。  いつものへらりとした表情を引っ込めて、直江の促しに素直について車へと行き…… 「あの、直江さん」 「うん?」 「あれ、オレ達が戻って大丈夫なの?」  ちょい と指を挿された先には微かに揺れる車が…… 「……」 「……」 「ねぇ、さっきまでの騒動ってなんだったの?オレ、いったい何の気を遣ったの?」 「……」  直江はぱく と口を開きかけては閉じ、なんとも言えない表情でしずるを見下ろすしかできなかった。     END.

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