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落ち穂拾い的な 車内で

「大神さんっ大神さんっ大神さんっ‼」    ぶつかるんじゃないかと言う勢いで車に飛び込んできたセキに大神はしかめっ面をしながら、傍らから何かを取り出す。   「直江が戻ってくる前に着替えろ」  そう言って差し出されたのは黒いものが入った袋で、よくよく見れば新品の下着だ。 「えっあっ……スカスカすると思ったら……」  セキはそこで初めて気がついたとばかりに、スラックスの中をちらりと覗いて驚く。  大神の深い溜息なんて聞かずに、照れたように頭を掻いたセキはなんの躊躇もなくストンとスラックスを下ろした。 「おい、少しは恥じらえ」 「え、あ、あっすみませんっ気が利かなくてっ」  慌てたように服を直すと、ジリジリと焦らすようにスラックスを下ろして……  見えそうで見えないギリギリのラインで止めてから、窺うように大神を見つめてくる。  ちらちらと意味ありげに見てくるセキに、大神からはため息が漏れる。   「そう言う意味じゃあない」 「えっ」 「さっさと着ろ。直江が戻ってくるだろう」  大神が見詰める先にはしずると立ち話をしている直江の姿があり、いつ切り上げて戻ってきてもおかしくない雰囲気だ。  覗き込むような無粋はしないと知っているし、ああして時間稼ぎもしているのは重々承知だが、だからと言ってセキがいつまでも下着をつけていないと言うことに、大神は落ち着かない様子を見せる。 「はい」  叱られたわけではないのに、セキはしょんぼりとしながら受け取った下着を身に着ける。  首輪と同様の、飾り気のない下着は実用本位なものだった。 「……大神さん」 「なんだ」 「ごめんなさい」  ぽつんと出された言葉はシンプルで、それ以上の言葉を募らない。  だた、セキの泣きはらした目が申し訳なさを物語っていて、大神はまた溜息を吐いた。 「我儘、言いました」 「いつものことだろう」  短い言葉はため息交じりで感情は読み取りづらい。  セキはできる限りその中から意味を拾い上げようとしたけれど、硬質な雰囲気の大神からはそれ以上の意味を見つけることができなかった。 「……オレは、邪魔ですか?」 「なんだ」 「オレは、負担ですか?」 「……」 「オレは、大神さんの重荷になりたくないんです。もし、オレがいることで不利益になるのなら……っ」  言葉が途中で途切れ、力ずくて引っ張られたセキの体が大きく傾いだ。  硬い筋肉質の体の上に倒れ込んだセキを、大神の手が撫でる。 「お前一人くらい、邪魔にも負担にもならない」  皮の厚い武骨な手は決して優しくない手つきなのに、セキを傷つけることはないのだと物語るようだった。 「お前が持ってくる不利益でどうこうなるように見えるか?」 「……見えないですけどっだからって負担がないわけじゃないじゃないですかっ」 「じゃあ負担だと言ったらどうする?」 「!」  はっと怯んだセキの見開いた目から、見る見る間に涙が溢れて目縁を濡らして行く。 「  あ、の、……だから、だから……でも、それなら…………大神さんの負担になるくらいなら、オレはオレがいらないです  」  バタバタと落ち始めた涙を大神は拭うと、珍しくはっきりと分かる苦笑を浮かべてみせた。  その男っぽい笑いにひくりとセキのしゃくりが止まる。 「泣くぐらいなら聞くな」 「だってぇ、オレは……自分の身よりも大神さんが大事ですっ!大神さんの幸せはオレが守りますし、オレが大神さんを幸せにするんですっ!」  縋りついてくる細い腕に応えながら、大神は「そうか」とだけ言葉を返した。 END.

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