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落ち穂拾い的な 後始末
額に手を当て、そこに深く刻まれた皺に耐えるようにぐっと息を詰める。
先ほどまでセキが騒いでいたために騒がしかった部屋の中も、今では別空間のようにしんと静まり返っていた。
荒ぶる気持ちを飲み込んだせいでいつもより険しい目が、すっかり散らかってしまった飴色のデスクを見遣る。
そして、おもむろに天井を見上げて、「何をしている」と呻くように声を出した。
「Hello, hello, hello!」
甲高く笑いを含んだ声が響き、とん と足音が追いかけるようにして響く。
扉は開いておらず、窓も閉まったままのこの部屋に現れた彼女は、沈む込むように椅子に座っている大神に向けてくすくすと笑いを漏らし続ける。
「何の用だ、すがる」
別段、それに驚く素振りも見せないままに問いかけてくる大神に、すがるは見事な砂時計型の腰に手を当てて首をかしげてみせた。
「その前に、服の乱れを直したら?」
「……」
「それとも、落ち着かせてあげましょうか?」
「必要ない」
大神が服を直している間にすがるは床に落ちた書類を集め、乱れたデスク周りを整える。
「あら、あらら」
「なんだ」
襟周りを整えて振り返る大神の目の前にぐいっと差し出されたそれは……
「……」
「これは大神社長の御趣味ですかぁ?」
赤いマニキュアの塗られた指で摘ままれたそれは、セキが忘れて行った物体だ。
一目見ただけでもその卑猥さのわかるソレに、大神の眉間の皺が更に深くなる。
「捨てておけ」
「清掃の方が困るでしょ」
「…………直江に捨てるように言え」
「じゃあこっちも?」
ひら と目の前を過ぎていく紐状の物体に、さすがの大神の目も丸くなった。
セキが身に着けていたそれは、大神の手であっさりと千切れて落ちて……
「それは 」
「あの子、下着履かずに帰ったの?」
「 ────っ」
「紙に包んでおくわね」
そう言うとすがるは適当な書類を取って器用に包み始める。
「おい、それは 」
「どうせ皺になってるんだから作り直さなくちゃでしょ?だったらいいじゃない。きちんと新しいのを返してあげてよ?」
「…………」
「それよりも報告にきたんだけど?」
すがるが下着を包んだ書類をデスクの上に置くのを見ながら頷くと、大神は先程のように椅子に腰かけた。
「まず、滝堂組からの返答は変わりないわ。こちらが条件を飲むまでは話すことは何もないと」
「そうか」
「それから、滝堂俊吾の行方も相変わらず」
「それは報告の意味があるのか」
冷たく言い放った大神にすがるは不愉快そうにつんと唇を尖らせる。
「しなけりゃしないで問題でしょ?八つ当たりしないでくれる?貴男がオメガに突っ込めないのは私のせいじゃないし、泣かせたのも私が原因じゃない。それに話が進まないのも私のせいじゃないわよね?だから 」
「わかった、もういい」
長くなりそうなすがるの言葉を遮り、大神はじろりと睨みつけてはみたが、すがるはそのことをどうとも思っていないようだった。
余裕の笑みで返すと肩をすくめてからくるりと背を向ける。
「そんな状態で仕事が手につくのー?気になるなら追いかければいいのに」
「うるさい」
低く放った大神の声に壊されるように、すがるの姿はざらりと崩れて消えて行った。
END.
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