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おはようからおやすみまで 1

 と と とよろけた体をを支えるために、大慌てで傍のガードレールにしがみつく。 「あんちゃん、大丈夫かぁ?」  たいしてそう思っていないことがバレバレの声で問いかけられて、「大丈夫」って返す。  もっとも、オレの外見を考えたらこうやって声をかけてくれたことは有り難くて、大概の奴らは関わり合いたくなさそうに遠巻きに見ているだけだ。  改造制服に、誰がどう見ても間違いようのない金髪をカチューシャで上げたオレは、どこにどう出しても恥ずかしくないってくらいの不良少年だった。  実際に今も、真っ当な学生なら机に座って授業を受けているべき時間帯で……  でもオレはそんな中、ちょん、ちょん、と足取りも軽く家に向かっている。  だって、『藪秋剛典(やぶあきたかのり)』に会いに行くんだから!  藪秋は、オレ『田茂シゲル』の……なんだ?  えっと、……オレの…… 「んぁ?恋人……で、いいのかな?」  ぴょんぴょんしていた足を止め、うん?と首を傾げる。  元は藪秋はオレの母親の借金を取りに来た借金取りの親玉だ。  借金を膨らませた母親は逃げたし、残されたケツの青いガキ一人ってことで、返済もできなさそうなオレをどうしてくれようと借金取りたちが困りきっていた時にやってきた人だった。  藪秋は、風俗に行かそうって言うのを、まだ幼いからと押しとどめて、借金にプラスするからなって言いながらオレの世話をしてくれている。  いっつも黒い服着て、黒い髪で、黒いサングラスなんかが似合って、煙草をスパスパ吸うところは良くないところだって思うけど、それでもオレのことを気にかけて弁当を買ってきてくれたり、いろいろしてくれる。  ……そんな藪秋に抱かれたの、数週間前だ。  母が行方をくらませた日、オレは学校で本当にやなことがあって、あの日は借金と学校でのやなことと、母が消えたことでもうぐちゃぐちゃの日で……  さすがのオレでも落ち込むようなことの連続だったせいで、その日のことを思い出すとちょっと情緒が不安定になってしまって……  それまで別にカッコイイとか、ステキだとかそんなこと思わなかったのに、オレのその不安定なトコに気づいてくれる人なんだってわかった途端、胸の中がぐわーっって言うか、どわーって言うか、なんかそんな感じになった。  だからつい、乗っかっちゃったんだけど さ。  まぁだから、オレと藪秋のことを表わすなら『恋人』でいいと思うんだ。 「わっわわわ」  よたよた とバランスを崩してしまった。  最近藪秋が毎日のように弁当を持ってくるからかちょっと太ったんだよね。  骨がゴツゴツだと抱きにくいって言ってたから、太らせようとしているのはわかるんだけど……

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