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おはようからおやすみまで 2
ズボンもきつくなっちゃってるから、ちょっとこれは……困る。
ちょっと走り込んだりして引き締めないとなって思いつつ藪秋の用意してくれたアパートに帰りつくと、丁度玄関のところに人影が見えた。
「あき!」
「んぁ?」
煙草を咥えているからか返事は曖昧だ。
「ただいまー!」
「ただいまって、そんな時間じゃねぇだろ」
そう言うと腕まくりしたムキムキの腕についた腕時計を見るから、それを誤魔化すために腕に飛びついた。
オレが飛びついたくらいじゃどうってことないだろうってことはわかってたけど、しっかり受け止めてくれるのが嬉しくて「うへへ」って笑い声をあげる。
「だって、ご飯置いとくって連絡来るからさぁ、来てくれるんだろうなって」
部下の人が来ることも多いから、藪秋自身が来るかどうかは賭けだったけど、なんとなーく来てくれるんじゃないかなって思っていた。
「っと、学校はちゃんと行けって言ってるだろ?」
「いーきーまーしーたー」
途中で帰ってきたけど。
オレの心の声が聞こえたのか、藪秋は何か言いたそうにしていたけど眉を片方上げて溜息を吐いた。
「冷蔵庫に飯突っ込んであるから、ちゃんと食えよ?って、ほら、煙草あぶねぇ」
ぎゅうぎゅうに抱き着くオレを押し退けて、携帯灰皿に吸殻を突っ込む。
闇金……ではないらしいけど、ギリギリのラインを攻めている職業の人間にしてはその辺り常識人だ。
「上がってよ!一緒に食べよ?」
「お前の分しか買ってねぇよ」
「半分こしよ?」
「仕事の途中だってのに……」
そう言うのに、押し退けずに一緒に中に入ってくれるのが藪秋の優しいところだと思う。
ぎゅうぎゅうの狭い玄関に入り、「狭い狭い」と言い合って互いの足を踏みながら靴を脱いで上がると、そこはもうリビング兼寝室のワンルームだ。
昔母親と住んでいたところよりもせまい一間しかないとこだけど、風呂トイレ別でできるだけ築浅のところを探し回ってくれた。
「コーヒー?お茶?」
「メシには茶だろ」
部屋の真ん中の小さなローテーブルの傍を陣取り、藪秋は寛ぎながら煙草をふかし始める。
「あっ室内は駄目だって!壁紙汚れるだろ」
「敷金礼金とか気にすんな」
「するっ」
藪秋のお金なんだから、ちょっとでもそう言うのは浮かせて行きたい。
「借金にプラスされるもんな?」
「ちーがーうー」
オレは別に、今更借金が増えようがどうしようがいい。
藪秋がこうやって払えって言うなら、風俗だってなんだってして払っていく気なんだから。
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