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おはようからおやすみまで 3
オレが願っているのは、ちょっとでも長く長く、藪秋と一緒にいれますようにってこと。
もし、オレ達が破局しても、それでも借金があって繋がってられるならそれでもいいんじゃないかなって思う。
朝から晩まで、藪秋に会っていたいし、雁字搦めにされていたい。
「茶ぁ薄めでな」
「はぁい」
急須に入れようとした茶葉をとんとんって減らす。
濃いものよりも薄い方がいいんだってさ。
本人は貧乏舌だからって言ってるけど、年とると濃いのダメになるとか聞くしそれじゃないかなぁ。
「ところで、お前……ちゃんと卒業できるんだろうな?」
「うっ説教は辞めてよ」
「説教じゃねぇ、心配して言ってやってるんだろ」
それは、母親にすらされなかったことだ。
『あんたが行きたいならそうすれば?』と興味なさげに言われては、相談にも乗ってくれることがなかった母は……
今、どこで何をしてるのか。
「だいじょーぶだって。この前、虎徹先生とちゃんと話し合ったよー?」
「卒業できるって?」
「頑張ればいつかは卒業できるよって」
「それ、できねぇって話じゃないか⁉」
「え⁉」
「え、じゃねぇよ!頑張れば(留年しても)いつかは卒業できるって話だろうが!」
「ああー……」
なるほどね。
だから珍しく虎徹先生が真剣な顔してたのか。
ふぅん。
「ちょ、おま、将来ちゃんと考えて……ないからコレなのか……」
剃り残した髭のある顎を擦りながら藪秋は微妙な顔をする。
「シツレイなっオレだってちゃんと考えてるよ?」
薄めに入れたお茶を持って藪秋のところに戻って、その前に正座してみせた。
ちょっと改まった雰囲気に、呆れ顔をしていた藪秋がちょっと神妙な顔をして座り直す。
粗くて、明らかに一般人ではなさそうな強面の顔をじっと見上げると、居心地が悪くなってくるのか藪秋の視線が徐々に逃げて……
「んっ、なんだよ」
咳ばらいを一つすると、もう視線は完全に逃げてしまった。
「こっち見て」
「んだよ、何でもいいから話せよ」
お茶を啜る動作に紛れさせて、こっちを向く気はなさそうだ。
「オレは、卒業したらあきの番になろうと思ってる」
「ぶっ」
ぱたた……って藪秋の口からお湯が零れて、気管に入ったのかゲホゲホと勢いよく噎せ始める。
ローテーブルや黒いシャツに雫が飛ぶから、大慌てでタオルを取りに立ち上がった。
「あき、大丈夫?」
「ぁ、ぁ゛⁉」
「ほら、タオル」
差し出したタオルをひったくるようにして取ると、藪秋はそれに顔を埋めてまた盛大にゲホゲホと咳き込んだ。
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