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おはようからおやすみまで 8
……んで、オレは今病院にいるわけだけれど…………
付き添ってくれていた藪秋はおいおいと泣いているし、目の前の看護師さんはニコニコだし、その隣にいるお医者さんは渋い顔をしている。
でも、オレはどんな顔をしているんだろう。
「おめでとうございます!」って看護師さんの言葉も良くわからないままだった。
オレはあの後、病院で子供を産んだらしかった。
「ちゃんとメシ食ってっか?」
病室に入ってくると同時に聞こえてきた言葉に返事ができないでいると、一抱えほどもある花束がずれて花の似合わない藪秋の顔が覗く。
その顔に、……ほっとした。
「あき……」
「なんだよ」
「来てくれるって思ってなかった……」
「あ?来るって言ってただろが」
「…………」
足で隅に置いてあった椅子を引き出して座ると、邪魔そうに花束をベッドの上に放り投げる。
「花……」
「おう、食い物は制限かけるって言ってたからな。手ぶらで来るのも愛想なしだろ」
そう言うといつもの調子で煙草を取り出そうとして、はっとしたように手を下ろした。
「…………」
「呆けてんな?そりゃ疲れただろ」
はは と笑う藪秋の姿はいつも通りだ。
いつも、オレの家にやってきて他愛ない話をする時と同じ……
「あき、オレ 」
「うん?」
「オレ、いったい、何があったのか……」
藪秋はちょっと目を見開いたけれどそれでもオレの言葉を茶化すようなことはせず、じっとオレの言葉の続きを待ってくれている。
「オレ……何が起こったのかわかんなくて」
そう言いながら見下ろした腹はぺったんだ。
筋トレしなきゃって思っていた腹はむしろ薄すぎるんじゃってくらいぺったりしていて、たぷたぷしてて……自分の体じゃないようで触るのが怖い。
体中の関節は痛むし、尻の穴がどうなっているのかは考えたくもなくて。
「シゲル」
「 っ」
藪秋は改まるようにオレの方に向き直って、深く深く頭を下げた。
「元気な子を産んでくれて、ありがとう」
はっきりとそう言われて……
オレは、やっと自分が子供を産んだんだって理解したんだと思う。
下げていた頭を上げてにこにこ笑っている藪秋は、いつもの厳めしい雰囲気なんか微塵もない表情だった。
「あれがそうだ」
藪秋の指差した先にあるいっぱい機械のついた保育器を見て、不安になって隣を見上げる。
「ああ、沢山機械があるように見えるけど、タマコ自身は超健康優良児だとさ」
「健康……」
そう言われても、ガラスを隔てた向こうにいるのはびっくりするほど小さくて、呼吸しているのかもここからじゃわからないくらいだ。
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