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第6話 自身への問いかけ

俺は風呂から出ると、自室でベッドに転がった。夜10時、そろそろ電話が来る頃だ。 俺は天井を見つめながら聖の言っていたらしい『もうすぐ発情期が来る匂いがする』事を考えていた。聖は元から匂いに敏感で、特に発情期の匂いには他の人間より抜きん出て感じる奴だから、マジでヤバいのかな。 あの時はスルーしたけれど、確かに最近体調がおかしい気がする。腹が妙に減るし、イライラしてムカつくし。まぁ、これは昔からか。そうだ、寝てる間に身体を擦り付けてるみたいで、朝起きるとシーツが床に落ちてる事もある。パジャマも半分脱げてるし。 こんな時、ほんと個室の寮で良かったと思う。俺は身の安全のために、自室に誰かを招いた事は無い。唯一あるのは、去年仲裁してくれた鱗川の兄の祥一朗だ。あれはどうしても二人で話さなければいけなくてしょうがなくだ。秋良もそれは知らない話なので、バレたらやばいかもしれない。未だに連絡取ってる事も秘密だし。 そんな事をボヤボヤ思い返していると、スマホが震えた。定期報告の時間だ。 「ああ、母さん?…元気だよ。え?薬?まだ余裕ある。うん。……。…ねぇ、薬って余計に飲んで良いんだっけ?…ああ。やっぱり?…分かった。そろそろ真剣に考えるから。了解。じゃ、また。…はい。おやすみ。」 俺はスマホをベッドに放ると、目を閉じて、今母親に言われた事を考えた。 『…雪弥、発情期が来るのを薬で止めるにも、限界があるのよ?誰か信頼できる相手に、発情期の発散相手を頼んでおかないと、知らない人間にレイプされる事になりかねないわ。しかも発情期だと自分から見境がなくなるから。よく考えて。』 何度も言われてきた事だけど、俺は気が重くなってため息をついた。匂いに敏感な聖が言うんだ、俺はもう薬で抑えられなくなってるんだろう。付き合う相手が居るなら、そいつに頼むって事もあるだろうけど。大体、発情期も来てないのに、付き合う相手なんていないだろ。 俺は自分のこの、本能に負ける感じが嫌なんだ。この世界では当たり前なのかもしれないけれど、俺にはそれが当たり前だなんてとても思えない。 それとも発情期を迎えてしまえば、俺もこんなに悩んでたことがバカバカしくなるくらいはっちゃけるんだろうか。そういえば、俺につるんでる奴らはいつでもウエルカムで、それは考えように寄っては俺の知ってる真っ当な世界と同じなんだ。 そう考えると発情期を迎えないせいで、俺だけがその俺のよく知る真っ当な世界に足を踏み入れられない…。俺はその事に改めて気づいてショックを受けた。だからと言って、自分自身を見失っていく発情期はトラウマだ。 実際発情期が来てないせいか、性欲なんてものは霞のようだ。自分自身で発散する事も無いし。高2で自慰の経験も無いなんて、やっぱり歪なんだろうか。俺は今までにも何度も考えた、答えの出ない問いかけをいつまでも繰り返していた。

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