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第16話 祥一朗との一年前の話

俺は先輩に、希少種の家系と未発情期の合わせ技が他人を惹きつける理由を知ってるのかと尋ねた。先輩は俺が部屋に用意してあったミネラルウォーターをゴクゴクと飲むと、視線を合わせて言った。 「ああ、そうだな知っている。だが、たまたま知ったという感じかな。子供の頃に父親が友人と話していた事をこっそり聞いた事があるんだ。子供の頃は何の事か分からなかったけれど、成長するにつれて特別な話だと気づいたよ。 話を聞いた発端はこうだ。知り合いの希少種の家系の小学生が誘拐されそうになって、間一髪の所で免れた事件の話だった。この事件は関係者の間でもみ消されたから公にはなってないようだった。お前は経験がないか?希少種の家系はただでさえ注目される。」 俺は家族に殊更用心する様に、小さい頃から言われていた事を思い出したが、どこまで目の前の先輩に言って良いものかわからずに黙っていた。先輩はそんな俺を黙って見つめると言葉を続けた。 「…子供が拐われそうになったのには理由があった。発情期前の子供を監禁して、発情期の発生を人為的に遅らせる事で、それぞれの希少種特有の能力をさらに高めることができるらしい。それの副産物として、むしろこちらの方が人によっては重要かもしれないが、希少種の子供の出現率をも上げることが出来るようだ。…この事を知っている人間もごく一部の様だった。」 俺は驚いて目を見張った。そんな話は家族からも聞いたことがなかったからだ。先輩は驚く僕を見つめながら更に続けた。 「どうしても希少種の子供が欲しい人間にとってはお金がいくら掛かっても危ない橋を渡るだろうな。そもそも、希少種の家系は私の様な大型猛獣の家系以上に、周囲を引き寄せるフェロモンが強いから、私たちは訳もわからず惹きつけられる。 だいたい普通、発情期の来ていない人間はフェロモンを感じることも、感じさせることも出来ないはずだ。だが実際雪弥は、発情期が来ていないのにも関わらず、私たちをたまらない気持ちにさせるフェロモンを確実に出している。それは経験値の低い高1よりも、高3の方がより感じ取れる。お前が絡まれる理由はそれだ。」 俺はハッとした。トラウマという理由はあったけれど、人為的に発情期を遅らせて、俺自身がその特別な存在になってしまっていると気づいた。俺は指先が微かに震えるのを感じて、両手をグッと握り締めた。ただでさえ希少種の惹きつけが発生しているのに、更に強化してしまったとは…。 それから俺は先輩にトラウマの話をした。俺の話を黙って聞いていた先輩は、発情期を薬で抑えるのにもそのうち限界が来るだろうから、その時に周囲の人間を混乱に陥れるよりも、フェロモンに強い自分なら対処できるだろうし、人脈もあるので何でも協力すると言ってくれた。俺は事情に詳しい先輩にすっかり心を許して頼ってしまった。 そうして性癖がハッキリした俺は、発情期の相手に祥一朗先輩を選ぶ事を決めたんだ。

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