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第27話 祥一朗sideいつもの雪弥

私がリビングで、連絡のあった急ぎのちょっとした作業をしていると、寝室のドアが開いて素っ裸の雪弥が立っていた。心なしか眠りに落ちるまで妖艶だったあの雪弥とはまるで別人の、心細気な、むしろ儚ささえ感じるその表情に、二言、三言話をすると、私は思わず近寄って抱き締めていた。 居た堪れなさを醸し出してる、この愛らしくも、美しい生き物を私はそっと包み込んだ。顔に浮かべる不安から守ってやりたかった。発情期に髪色が変わるなどという、前代未聞の変貌を遂げた雪弥が、これから今まで通りの生活に戻れるとは、とてもじゃないが思えなかったからでもある。 私が抱きしめると、身体を強張らせて慌てた様子の雪弥は、すっかり発情期前の彼に戻っていた。慌てて浴室へ向かうしなやかな後ろ姿を見送って、身体のあちこちに見える赤い印に少しだけ動揺してしまった。 ソファに戻りながら私は、自分が思うより雪弥に執着している自分を見せつけられた気がして、ため息をついた。先程のあの様子では、普段の雪弥を自分の手中に囲い込むのはなかなかの難問だ。 髪色の変化も気になるが、もうひとつ本人が覚えているか分からないけれど、あの謎めいた言葉。 『俺は人の心を喰らう猛獣だ』あれは何を意味してるのか。それとも発情期の世迷言なのか…。 私はキリの良いところまで仕事をまとめると、着替えて雪弥の食事の用意をした。丁度セッティングが終わる頃、私用の大きなバスローブに包まれた雪弥が出てきた。雪弥は決して小柄なわけではないけれど、私が190cmあるのでどうしても華奢に思える。真っ白なバスローブに足元まで覆われて、可愛らしかった。 「雪弥、着替える前に食べるかい?お腹がすいたろう。」 雪弥は私の顔を見た後、少し首筋に視線を移して顔を赤らめて、ぎこちなく頷くと食事を始めた。 黙々と食事を取りながら、チラチラとこちらの様子を伺う雪弥が何を言いだすのかと、面白い気分で待っていた。 「あのさ、それ。俺が祥一朗につけたんだろ?ごめん。そんな目立つ場所に付けちゃって。俺あの時のことは朧げにしか覚えてないけど…。ヤバかっただろ?」 そう言って、指を自分の耳の下の首筋に置いた。どうも私の首筋にも赤いキスマークが付いているらしい。私は自分の首筋を掌で撫でると言った。 「っふ。別に隠す必要もないさ。私が発情期の相手になって篭っている事は、私の家の者も知っているし、大学の友人も了承している。ただ、私が誰と篭っているかはごく一部の身内しか知らないが。…そのことで雪弥に話があるんだ。」

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