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初雪**この想いを淡雪にのせて(3)

 抱きしめてくれたのはほんの一瞬のことだったかもしれない。  でも、ぼくにとっては長い時間のように思えたんだ。  ドクン、ドクン、ドクン。  うるさい心音。  どうか雅さんに聞こえませんように。  交わった視線を外したのはぼくの方。  大好きな雅さんをもっと見つめていたいのに、恥ずかしくて――。  目を逸らしてしまった。  でも、どうかもう少し。  こうやって抱きしめていてほしい。  人目なんてどうでもいい。  今だけは……。  ぼくってやっぱり自分勝手だ。  こうしてぼくを抱きしめてくれる雅さんが他人からどう思われるかなんて少しも考えないんだから。  そんな子供っぽい自分に嫌気がさす。  回された腕を振り切る勇気すら持てなくて、ジッとしたまま力強い腕の中にいれば、周囲から喧騒が聞こえてくる。  ボンヤリした空間から一気に我に返った。  信号待ちはもう終わり。  いつまでも回した腕をそのままにしている雅さんを振り切って、ぼくは悲しくなる持ちをグッと押し込める。  離れた体は寒くて寒くて、凍えそう。  それでも大好きなその人に笑顔を向けて走り出す。 「はやく行きましょう? 展覧会すごく楽しみなんです!!」  本当は、絵なんてどうでもいい。  大好きな人といられる方がずっとずっと幸せだ……。  でも、そんなことは言えないから、ぼくはにこにこ笑って自分の気持ちを押し隠す。  ズキズキ痛む胸にしらんぷりして……。  神様、今日だけはお願いします。  ――そう、神様にお願いして……。

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