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第4話 一年前

   俺のひなチャンが可愛い弟だったのは、中学二年生までだった。雨後の筍か?と、言いたくなるほど日に日に伸びていって、気が付けば俺よりでかくなっていた。  「かっちゃん」と呼ぶ声が可愛い声がピヨピヨと鳴くひよこから、掠れたちょっとぞくぞくする声になった。  これはまずいぞと気が付いてはいたけれど、決定打は一年前の夏の午後。  隣の家に桃を届けろと言われて、勝手知ったる家のダイニングテーブルに言いつけられた桃置いて帰ろうとした。そしたら二階で勉強でもしてるか、部活行ってるだろうと思っていたひなチャンが、リビングのソファで昼寝中だった。  暑かったから仕方ないんだろうけれど、下着一枚で無防備に腹筋さらして寝ている方が悪い。つい触りたくなってしまったとしても、俺のせいではなかったと思いたい。  そっと、本当にそっとつついてみたかっただけ。    つんと、つつくとひなチャンがくすぐったそうに体を捩った。動いた瞬間にふわりとなんだかいい香りがした。その瞬間に頭の中がスパークして真っ白になった。もうどうしようもないくらい、ひなチャンがかっこよく見えてしまった。  でもそんなことは言えないから、ひなチャンに変な虫がつかないよう出来る限りの努力はした。部活の休みの日にはなるべく映画に連れて行ったり、勉強を見てやったり。ひなチャンの友だちに声かけて、連れ出してもらったこともあった。  それでも限界はあって、気が付いたらひなチャンに彼女が出来ていた。え、ひなチャンが女とキスすんの?そう考えただけでくらくらした。  何とか別れさせる方法はないかと画策していたら、いつの間にか彼女と別れたと言う。  「どうした?フラれたか?」  「かっちゃん、それ言わないでよ。俺、そんなにお子様?ガキっぽいって言われた」  ため息をつきながら、俺の部屋にまた入り浸るようになったときは小躍りして喜んだ。さて、どう攻略してやろうかと毎日わくわくドキドキ。  さりげなく手をつないでみても、にこにことしている。さりげなあく、さりげなく体にタッチしても、満面の笑みで猫の様にすり寄ってくる。無邪気って時には、残酷なんだと知ったよね。  春になったら大学でひなチャンとは離れちゃう。その前に何とか。  その一大計画がとんでもない形で幕を引いたのは、大学に合格して浮かれたころだった。受験勉強から解放されて、調子に乗ってたんだと思う。たまたま、SNSで知り合った友達と部屋で事に及ぼうとしていたときにひなチャンに見られてしまった。  まだ服は着ていたし、ぎり大丈夫と思っていたけれど。  翌日からひなチャンの態度が変わった。俺がそばに寄ると自然と離れていく距離。目を見て話してくれなくなった。  攻略どころかゲームオーバーだった。

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