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第6話 夏の思い出
小学校の時は、絵日記を毎日書かされた。書くことなんて毎日ないし、大発見と言ったって、カブトムシがいいところだった。
今年の夏の大発見は、従兄のかっちゃんが俺の事が好きだと言う事実、事実なのか真実なのか分からないけれど、とりあえず天と地がひっくり返るくらい驚いた。
実際に天と地がひっくり返ったら大事だけど、かっちゃんが俺を好きってことだってカブトムシの何十倍、何百倍も大騒ぎの発見だ。まあ、たとえ絵日記が今年の宿題に出されたとしてもと、とても書けない内容ではあるけれど。
その日の夜は眠れないと思っていたが、気が付いたら朝だった。
なんだ、俺って結構平気だったんだ。
そう思っていた、思っていたけど一階のダイニングテーブルに座って母さんと談笑しているかっちゃんを見た時は、もうどうしていいか分からなくなった。
「おはよ、ひなチャン。ずいぶん遅くまで寝てたね」
「せ、成長期だから?」
「なんで疑問形なんだよ、それ以上でかくならなくて良いよ。見下ろされてるみたいで腹立つ」
かっちゃんいつもと変わらない、俺の事好きだって言ったのは昨日の事だったのに。
「陽向、泊りで出かける約束あるなら前もって言いなさい。母さん聞いてないわよ」
えっ!?俺、かっちゃんと出かけることになってる?いつ、いや今日だろ、この流れじゃ。泊りでって、一体どこへ行くんだろう。
「違うよ、昨日誘ったばっかだから、陽向もおばちゃんに言う時間なかったんじゃない?」
「え、おばちゃん??」
「あ、ごめんなさい、桐子さん。陽向も伝える時間がなかったんだよな?」
そうか、そこか母ちゃんの怒るポイント。
「海行くって昨日約束したんだよ」
「全く、克也も陽向なんかに構ってていいの?」
「いーの、いいの。従弟が可愛くて仕方ないんだから」
かっちゃんが連れて行くのなら安心って母ちゃん、何も細かいこと聞かないで許可しちゃった。
「ひなチャン、荷物準備してこいよ」
そう言われて、自分の部屋に戻った。水着とタオルと下着と。え、俺って普通に楽しそうに準備しちゃってるし、大丈夫なのかな、大丈夫だよね。
それから一時間後、かっちゃんの車に乗せられて海へと向かう事になっていた。
「かっちゃん、あのさ、今日なんだけど」
「何?ひなチャン」
「な、何でもない、腹減った」
「お前、家出る前に飯食ったばかりだろ。どんだけ食うんだよ」
どこに行くとも言われないまま、車が走り出して、昨日の事も聞く前に今に至っいて、もうどうしようもないくらい落ち着かない。何か話していないと、吐いちゃいそう。
もう駄目ってくらい自分がいっぱいいっぱいなのに気が付いた。それと同時にかっちゃんが、楽しそうに口笛吹いているのにも気がついた。大人の余裕ってやつなのか、何なの分からないけど、腹が立った。何だよ、昨日の事は単なる悪戯かよと思い出した。
「そこのコンビニでアイス買って、それとジュース」
これくらいの我がまま言ったって、きっと許される。昨日驚かせたお詫びにそのくらいしてくれてもいいはずだ。
「はいはい、なんだかご機嫌斜めかな。買ってきてやるから車で待ってて、エアコン切りたくないからさ」
やっぱり、いつものかっちゃんだ。うん、昨日の事は何かの間違いだ。そう、きっとそうだ。
「かっちゃん、バニラだよ。カップのやつね」
「知ってるよ、ひなチャンの事ならなんでも」
コンビニの駐車場に車を停めたかっちゃんは、降りるときに俺の頬にチュッと音を立ててぶつかった。え?ぶつかった?
昨日の事は悪戯でも、間違いでもなかったようだ。
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