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第7話 夏の宵は
かっちゃんが連れて来てくれたのは、海の家でも民宿でもなくて、お洒落な別荘。
「かっちゃん、ここって?」
「ここ?借りたよ」
そう言って楽しそうに笑うけれど、俺の家が丸ごと入りそうなリビングがある。ここを借りるのにいくらかかったのだろうと考えてしまう。
やたらと白い壁と、やたらと白い家具、真っ白って落ち着かない。通りに面した壁は大きなガラス窓で、こんなん外から丸見えじゃんと思ったけど、大きい庭のおかげで通りから見えることはないらしい。
「遅いなあ、そろそろ来るはずだけどな」
ぼそっと呟いたかっちゃんの言葉に驚いた。
「え?誰か来るの?」
「一人じゃさすがにそんなに金も出せないからね。心配しないで大丈夫、みんないいやつだから。大学のサークルの友達が五人だけだよ」
二人きりは緊張すると思っていたけれど、誰か来ると聞いて本当にがっかりした。なぜ、がっかりしたのかは分からないけれど。
しばらくしてがやがやと入ってきたのは、五人の男女。女性が二人に男性が三人、みんなとても親しそうにかっちゃんに話しかける、ここ俺は場違いじゃない?
「お、その子が例の子か?」
そう言って一人の大学生が、かっちゃんの耳元で何かを囁いていた。なんだあいつ、なんでそんなに近づいてるんだと腹が立った。
「かっちゃん」
ぐいっと、かっちゃんの袖をひっぱった。
「ん?一人前に妬いてるのか」
そう言ってぽんぽんとその嫌な男に頭を撫でられた。子ども扱いされたと頭に来て手を思いっきり払ってやった。
「何?」
かっちゃんは余裕の笑みでこっちを見ている。明らかに俺がアウェイだ。すぐに賑やかにバーベキューが庭で始まり、自己紹介からスターとした。
「陽向、俺の従弟」
従弟?そうだけど、なんだか釈然としない。どこをどうしたら、昨日からの流れで今日は和気藹々と知らない人たちとバーベキューになったのだろう。
「どうした?つまらないか?」
かっちゃんが心配そうに顔を覗き込んだ。つまらないという事はない、けれど面白くもない。何が面白くないって、かっちゃんにやたらと触るやつが一人いる事が気に入らない。
ん?よく考えてみたらこのバランスおかしい。明らかにカップルが二組に……男が三人あぶれている。
「ねえ、そこの人」
そのべたべた触る徳永と言う男に声をかけた。
「なに?陽向ちゃん。さっき自己紹介したよね?頭悪くて覚えられない?」
ほらとげがある、それも鋼鉄製の尖ったやつだ。
「徳永さん、かっちゃんから離れてくれませんか?」
「何の権利があって、従弟君にそんなことを言われなきゃいけないのかな」
かなり頭にきた。こいつきっとかっちゃんのことが好きなんだ。別に誰がかっちゃんを好きでも構わないけど。俺は、本当に構わないのかな?何でこんなに腹が立つんだろう。
「権利ってか、変ですよそんなにベタベタと」
「んー?お子様には分からない大人の事情ってのがあるのよ」
含み笑いが鼻につく、こいつは俺の中の区分けでは最低ランクに位置づけられることに決定した。
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