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第10話 ひとなつの
「ひな、何ニヤニヤしてんだ?」
「んー?思い出してた」
バルコニーから見る風景は、あの朝見たまぶしい海。海岸線の風景は変わってしまったが潮の匂いは当時と同じだ。あの夏から十年、時を重ね、時を温め、多少の諍いはあっても手を取って歩んできた。
「思い出し笑いとか、年寄り臭えな」
「高校生には衝撃だったなって」
「何の話?」
「いや、何でもない」
あの夏がすべての始まりだった。あれから絡めて取られて、克也の手中に収まったのだ。
「ひな、キスしないの?」
「ん?どうしようかなあ?して欲しい?」
「何、その言い方?」
「多分、期待してたんだなあの朝は」
「さっきから何の話してんの?それよりさ」
誘いの合図、羽織っていたシーツを持ち上げると、克也がにっと笑った。
「やーらしい顔、俺その顔好きだな」
「ひなも十分、エロい顔してる」
ベッドに近づくと、指を絡めた。そしてゆっくりと覆いかぶさった。
「んっ」
「どうしたの、いつもより反応いいよ」
「お前だけじゃないから、あの朝期待していたのは」
「なんだ、分かってたんだ」
二人で顔を見合わせると、途端に大学生と高校生の時に時間が巻き戻されたように感じる。
「ひな、顔赤い」
「克也も」
我慢できなくなって、笑いだす。つられて克也も笑いだした。頬に音を立てて高校生のようにキスをした、そしてまた顔を見合わせて二人で笑った。
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