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#1「妄想」
耐えない傷、好き勝手にされる体、自分を助けようと心配してくれる友人の言葉が痛い。それでも俺は、赤井くんの側にいたい。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
/君島side
「ぅ、っ、…げほっ」
喉が痛い。体のあちこちが痛い。
目が覚めた俺は、水が飲みたくて体を起こそうと力を入れ、手首に違和感を感じた。
そういえばベッドに鎖で繋げられたんだった、と自分の現状を思い出し、俺はきしむ体から力を抜く。
ぼんやり開く俺の目が、狭い和室にカーテンの隙間から微かに夕日が差し込んでるのを見つける。
俺は咳き込みながら、オレンジ色のその光を見つめた。
何時間…、いや、何日経っただろうか。
そろそろ学校行かないと。何も連絡してないから、祓川と鈴木もきっと心配してる。
「げほっげほっ、っ、携帯…」
長らくテーブルの上で放置されていた折りたたみ式の携帯は、メッセージを受信している事を伝えるために小さく光っていた。
なんとか手を伸ばせばギリギリ手が届くかもしれない。
俺は鎖に繋がれた手を伸ばしながら体を起こそうとお腹に力を入れた。
「ッあ、ぅ」
力を入れた瞬間、ブワッっと全身が粟立って、伸ばした手を止める。
お尻に異物感。
俺を散々泣かせ、最終的に気絶まで追い込んだそれ。
俺の肛門をギリギリまで広げ、少しでも体を動かせば中を刺激するそれに、今すぐ抜きたい気持ちにかられる。
でも、抜いていいという許しは、彼から出ていなかったと思う。
気絶する前に何か言われてないかと、なんとか思い出そうとする。
しかし、彼の言葉を思い出す前に、体が先に色々思い出してしまった。
全身がじわじわと熱くなり、俺の意思とは関係なく勝手に敏感になる。
動いていない中のものに、体が動いてほしそうに締め付け始める。
「ぁ、やっ、ッ、げほっ、やだ、やだ…」
後ろで、たくさん、たくさんイッた。
もういい、もうイきたくない。
そう思うのに、体が徐々に熱を持ち始める。
たくさんイったとはいえ、あの時の俺の性器にはコックリングが付けられていた。
精液は一度も出せなかったと思う。
今は、…付いていない。
「はっ、ぅ」
たくさんイきすぎて、もうイきたくないと思っているはずなのに、今なら出せると知ると体の熱が止まらない。
どんどん気持ち良くなる体に泣きたくなり、同時に焦る。
このままじゃイっちゃう。でも、でも。
彼が、…赤井くんが出していいって言ってたかどうか思い出せない。
勝手なことしたら…。
だめだ、感じるな。そう思えば思うほど入ってる物に意識が集中してしまう。
どうしよう、どうしよう、赤井くん…赤井くんっ。
「ぁ、ん、はやくっ、赤井くッ、んッ」
『はやく、何?』
「ッ!」
『こんな腹パンパンにして、まだ欲しいのかよ』
「あっ、だめ、駄目だ…だめ…ッ」
自分の制止に反して、熱に侵食された頭は我慢しようとすればするほど欲を強く求め、脳裏に都合のいい赤井くんを生み出し始めた。
一度始まってしまった妄想は止まらない。
妄想の中の彼に、都合のいい言葉を言わせてしまう。
『何が欲しい?』
「だめだって、っ、げほっゲホッ」
『これ?』
「げほっ、…あっあっ、だ、め、だッ」
『ここ、好きすぎ』
「ぁあ、あっ、イっちゃう、だめ、だめッ」
『イけよ、好きなだけ。ここだろ』
妄想の赤井くんに激しく突き上げられそうになり、何でもいいからこの妄想を止める何かを見つけたくて、身をよじって部屋を見渡した。
が、それがいけなかった。
後頭部に当たっていた布。
暗くてよく見えないそれを、俺はまくらだと思い、そんなもの何の助けにもならないと分かっていても藁にもすがるように顔を動かすと、その布からふわりと香るタバコの匂い。
それが赤井くんの上着だと認識すると、ぶわりと体温が上がった。
もうだめだった。
「ッ、ぁ、あっ、どしよっ、こんなっ」
『ほら、こっちきな』
妄想に香りが付いた威力は絶大で、俺の意思で体を抑えることは到底無理。
今、自分が感じている快感は赤井くんが与えているように体が錯覚し始める。
「っあ! あっ、むりっ、イっちゃッ」
『すげぇな、中、動いてる。そんな気持ちいんだ?』
「イッ、や、あっ、あっ!」
『俺も、…ッ!』
「ぁッ、あっ、〜〜〜ッ」
お腹に溜まっていた快感が、一気に全身へと回る。
その堪え難い快感には声も出せない。
頭から足先まで敏感にしながら、耐えられない快感に全身を震わせる。
「〜〜ッ、ぁ、っ」
長い痙攣がゆっくりと落ち着いていき、全身が溶けるように脱力する。
「っ、はっ、はぁ、ぅ…」
お尻の穴いっぱいいっぱいで収まっているバイブを中で締め付けながら、俺は慌てて下を見る。
「っ、よかった…」
精液は出ていなかった。
これならきっと勝手にイッたこともバレない。
そう安心したのもつかの間、精液を出せなかった体が、物足りなさげにひくひくとバイブを締め付け始めた。
性欲をコントロールできない俺の体は次なる絶頂へと準備を始めてしまう。
「っ、う、あっ、も、もう、むり。無理無理」
下半身に渦巻くん熱に腰をくねらせながら、赤井くんに怒られる覚悟で、下腹部に力を入れて中のバイブを出そうと試みる。
しかし、バイブは根元がコブのような形になっており、上手く力が入らない俺はただそのバイブを締め付けただけで終わってしまう。
「ッ、出なッ、あっ、あっやだ、もうやだってッ」
吐き出されなかった熱は早く出せと言わんばかりにあっという間に体を絶頂まで追い込んだ。
「やだ、またっ、イッ、〜〜〜〜ッ、ぁああ!」
『まだイケるな』
「ぅ、うぅっ、だめ、だめだって、なんで出ないんだよ、やだ、やだッ」
『イけよ』
「やっ、あっああっ、止まんないッ、止まんな、ひ、イっ、〜〜ッッ!」
『もう一回』
「っ、ッ! っあ、ひッ、…どしよっ、マジでとまんなっ、んんッ!」
続けざまに襲ってくる鋭い快感にぼろぼろと涙を布団に落としながら、息も絶え絶えに快感の波に耐える。
本当にバイブは動いていないのかと疑念に思うけど、この部屋に響くのは自分の声だけでバイブの音は聞こえない。
バカみたいに勝手に動いて勝手に気持ち良くなってしまう俺の体。
俺はこのバイブに1日で二回も気絶させられることとなった。
「…ぉぐッ! ッ、ぅ…ッ、ッ」
気絶していた俺は、無防備な腹部への容赦ない蹴りで無理やり起こされた。
「ぉ、え゛、ッ、げほ、げほっ」
胃が衝撃で痙攣し、吐き出すものはなかったものの吐き気と嗚咽が止まらない。
腹部を抑えるように体を丸めながら、泣きすぎて腫れた重い瞼を上げれば、俺の腹を蹴った足と、表情なく俺を見下ろしている赤井くんがいた。
いつの間にか付いていた部屋の明かりが逆光となり、より一層赤井くんの感情が読めない。
でも、…きっとまだ怒ってる。
「返事しろよ」
「げほっ、ッ、ぅ、ぇ…」
「返事」
「っ、め、…ぁい、げほっげほっ」
謝ろうと声を出すけど、長時間飲み物を口にせずに泣き枯らした喉はまともに言葉を出すことができず、すぐ咳き込んでしまう。
それでも何度も声にならない声で謝っていると、赤井くんがベッドに上がってきて、俺は悲鳴をあげそうになる。
「ぉ、願いっ。中の、取って、げほっ、取ってから…」
殴られるのも蹴られるのも、赤井くんならいい。
でもバイブが入ったまま蹴られたら、今度こそ内臓破裂するかもしれない。
頭に浮かんだ最悪を回避したくてとっさに赤井くんに頼むけど、赤井くんは無言で俺の手首を拘束している手枷を外す。
自由になった手でベッドを押して上体を起こそうとすると、赤井くんの手に胸を押され、俺の体はベッドへと戻された。
殴られる気配はない。
赤井くんが何を考えているか分からなくて、俺はただただ赤井くんを見ることしかできない。
「げほっ、ぅ、っ」
「俺にやれって?」
「ッ、ちがっ、ご、ごめんなさっ」
「自分で取れよ」
そう言う赤井くんの手は俺の両手をベッドに押し付けた状態。
これじゃ取れないと困惑する俺に、赤井くんが俺を見ながら静かに言う。
「手は使うな」
できない。
出かかったその言葉を、俺は飲み込んだ。
できなかった事を言えば、勝手に抜こうとした事がばれてしまう。
さっきはできなかったけど、今はできることを信じてやるしかなかった。
俺は何度か息をして、意を決して目をつぶり下腹部に力をいれる。
「うっ、…くッ、…んッ」
「……」
「ッ、はッ、はぁっ…、…ぅくッ」
何度かお腹に力をいれるがやっぱりうまくいかない。
力んでる顔を至近距離で見られる恥ずかしさに耐えながら、痛みの残るお腹にもう一度力を入れる。
でも、やっぱりうまく力が入らない。
無理だ。
そう感じながら、俺は泣きながらお腹に力を入れ続けた。
「ぅ、んッ、んんっ、ッ」
「……」
「ひっく、う、っ、んっ…、ごめんなさ、ごめんなさいッ」
「……」
「ご、ごめんなさい。ちゃんと、やるから、ごめんなさいッ」
何度も謝る俺を見ていた赤井くんが眉間に皺を寄せる。
苛立たせたと分かった俺は、さらに謝りながら頑張ってお腹に力を入れた。
謝るばかりで言われたことができない俺にしびれを切らせた赤井くんが、俺の手を離してバイブに触れる。
取ってくれるなんて思わない。
案の定その指はバイブを抜いてくれる事はなく、それどころか隙間なんてないと思っていた肛門とバイブの間に無理やり入ってきた。
赤井くんの指が限界以上に中を広げ、肛門の痛み以上に、バイブ詰めの腸が背中側に動くその感覚に恐怖して俺は泣きながら赤井くんの腕を掴んだ。
「や、怖いっ、怖ッ、ッ、げほっ、こわ、いッ」
「……」
「っ、…めんなさッ、ごめんなさい。ごめんなさいッ」
「……」
「ごめんなさいっ、すぐ取る、自分でやるからッ」
できない事をやるやると言い続ける俺に赤井くんは何も言わない。
だけど、その目はより一層冷たくなり、俺は血の気が引く。
「ッ、ぁあやだっ! ごめんなさいッごめんなさっ、げほげほッ、っ、ごめッ、なさッ」
赤井くんの癇に触れた俺の腹部が膝によって押しつぶされる。
体重がかかればかかるほど、バイブが角度を変え、腸の位置がずれていく感覚と共に腹部と肛門に痛みが走った。
俺はがくがくと震えながら赤井くんの腕にすがる。
「ごめんなさいッ、ごめんなさ」
「勝手な真似、何度目だろうな」
「ひっく、ひっく、ぅう…」
「なあ」
「ひっ、ごめんなさいッ、しないです、勝手な事しなっ、げほげほッ、っ、しないです」
「メールは」
「っ、五分、以内にッ…返します…ッ」
俺の言葉を聞いた赤井くんは膝を下ろした。
そして俺の肛門に刺さってるバイブの取っ手を掴み、ゆっくり抜いていく。
バイブの一番大きいこぶが肛門を広げ出て行く痛みに、俺は歯を噛み締めながら耐える。
エッチな気持ちになっていた時はあれだけ気持ちよかったバイブも、熱が冷めた状態ではただの凶器でしかない。
俺は浅く呼吸を繰り返して、バイブが早く抜ける事を待つ。
「ぅ、ッ、ぐっ」
「……」
「はっ、はっ、ッ、ぇ、……ッ」
ゆっくり時間をかけて抜かれる事に少しだけ違和感を感じた俺は、バイブが抜けきる前に赤井くんの動きが止まった事でまだお仕置きが終わらないという事に気づいた。
きつく目を閉じて、入れないで、入れないでと願っていると、予想してなかった場所を触れられて走った快感に俺は目を見開く。
赤井くんの指が、俺の性器に触れている。
赤井くんが、俺のを…。
涙目で赤井くんを見ると、赤井くんと目があった。
赤井くんの手が動き始めた。赤井くんの視線に射抜かれたまま。
あ、だめだ俺。
「あっあっ、あ、ダメっ、出ちゃッ、すぐ出ちゃうッ」
「出せよ」
お許しが出た俺の体はスイッチが切り替わり、急激に熱を持ち始める。
赤井くんに触られたことによって熱を持った性器はすぐに立ち上がり、赤井くんの手の動きに合わせて先から透明な汁が流れ出す。
そうなれば異物であったバイブも性的な道具として即座に認識され、肛門がひくひくと動き始める。
お腹の痛みまでも気持ち良さに変わり、全身が快感に支配されていく。
ずっと精液を出さずにいたせいか、体が異様に敏感で腰が気持ちよすぎて溶けそうになる。
なのに、絶頂直前の上り詰めた気持ち良さから先に進まない。
「あぅ、なんかっ、なんか変ッ、あっあっ、」
イけない。
気持ちいのに、なのにイけない。
「あかっ、赤井くっ、イけな、イけないッ」
「すぐ出せるんじゃねぇの」
「おかしっ、おかしいッ! や、とめてッ、ッあ」
イキそうになって全身に力が入り絶頂の快感に体が備えるのに、全身を突き抜けるあの強い快感がいつまでもくることはなく、全身を熱がずっと巡り続ける。
赤井くんがいるのに、触ってもらえてるのに、さっきは妄想だけでイけたのに。
何がだめなのか、考える前に体が教えてくれた。
まさかと思ったけど、そのまさかかもしれない。
でもそんなこと、赤井くんには言えない。
イかなきゃ、イかなきゃと必死になる俺に、きっと全てを見透かしている赤井くんがほとんど抜けていたバイブをまた中へと戻し始めた。
欲しかった刺激に、全身がぶわりと鳥肌を立てる。
「あっあっあっ、ひッ、ぃ」
「イけよ、嘘つき」
「いくっ、イくッ、イっ、〜〜〜〜ッッ」
欲しかった刺激でイケた絶頂は強烈で、苦しいほどの快楽に全身を激しく飲みこまれた。
性器の先から白く濃密な精液がトプトプと力なく溢れ続け、その長い長い絶頂に意識を持っていかれそうになる。
「ふぅ、うっ、あ、ぁ、うぅぅ…ッ」
「……」
「ぅ、っ、……ッ、ぁ、は、はぁ…」
しばらくするとやっと激しい快感が落ち着き始め、体の力が抜ける。
息を整えながら絶頂の余韻からまだ抜け出せない俺は、バイブを抜き取りそのままゴミ箱へと放り込む姿をぼんやりと見つめる。
視線を動かすと、赤井くんは俺を見ることなく俺の顔の横にある自分の上着を手に取り、そのまま外へと出て行ってしまった。
赤井くんの後ろ姿を見送った俺は涙でぼやけた目をこすりながら、のろのろと拘束アザの付いた腕を伸ばしてテーブルの携帯を手にする。
今日でちょうど一週間。メールもたまってるし、着信も来ている。
枯れた喉を咳でごまかしながら、心配しているであろう友人に明日は学校に行くことをメールで伝える。
無断欠席の理由…、何て言おう。
* * * * *
「起立、礼」
授業が終わった教室はすぐに人の会話があふれた。
机の上を片付ける俺に、授業が終わってすぐに見知った二人がくる。
「なぁ、本当に大丈夫なのか?」
心配そうに声をかけてきたのは今の俺の友人である、鈴木だ。
その後ろには同じく心配そうな顔をした祓川もいる。
「大丈夫。祓川も、返事できなくてごめん」
「それはいいけど…」
俺の手首の痣を見つけた祓川が、すぐにそこから視線を外した。
隠しきれない痣に、俺も眉を下げることしかできない。
同じように俺の痣に気づいた鈴木が、眉間に皺を寄せる。
「病院行ってねえなら、行こうぜ。放課後付き合うし」
「大丈夫、病院に行くほどじゃないから。祓川もそんなに心配しないで、本当に大丈夫だから。…心配かけてごめん。二人ともありがとう」
俺の心配しないでと言う言葉で、友人の曇った表情を変えられた試しはない。
変わらないその表情に、俺はいつも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
空気を変える気の利いた言葉が言えればいいんだけど、心配してくれる二人を前にするといつも、大丈夫、ごめん、ありがとう以外の言葉が浮かんでこない。
「次の授業なんだっけ?」なんて、あからさまに話題を変えた時、携帯が震えた。
「あ、ちょっとごめん」
俺は慌ててカバンから携帯を出して開くと、赤井くんからメールが届いていた。
タイトルのないメールを開くと『帰る』の一言。
まだ1時限終わったばっかりなんだけどな。
「ごめん、俺帰るね」
赤井くんを待たせる訳にはいかないので、俺はせかせかとすぐに帰る準備をする。
赤井くんと付き合い始めてから俺の自由と言える時間はほとんどない。
アザのない日なんてもっと無い。
この学校の生徒は、赤井くんに目をつけられるのが怖いから俺に声をかける人がほとんどいない。
きっと俺と赤井くんの関係は、端から見たら虐めや奴隷なんていう異常な関係に見えるだろう。
でも、それは違う。
「それじゃ、また明日ね」
「相談は乗ってやれるんだからな」
「…うん」
「君島、あんまり無理するなよ」
「うん、二人ともありがとう」
二人は分かってくれている。
俺が赤井くんのことを好きだということ。
俺と赤井くんはちゃんと付き合っていることを。
笑って手を振りながら俺は二人と別れ、急いで校門へと向かった。
* * * * *
/友人side
「で、今回何だったわけ。学校には風邪が長引いたって言ってるみたいだけど…」
「違うに決まってんだろ。君島が風邪拗らせてて早退した日…あの日、君島は休むつもりだったのに赤井が無理やり来させてたんだよ。結局先生が早退させたけど、赤井の許可とってないのに勝手に帰る事になったから…、結果あれ。今朝聞き取った感じだとそういう事らしいぜ」
「君島に非はないな…」
「良し悪しなんて関係ねえよ。君島が何かやらかしたとしてもあんな痣つける必要ねえだろ。つーかそもそも赤井が無理に連れて来たのが悪いんじゃねぇか。風邪引いて早退したやつに付ける痣じゃねえだろ…」
「まだ声も変だったし、風邪も治してる暇なかったんだろうな」
「それよりこの一週間赤井に殴る蹴るされたことの方が心配だっつーの。風邪ならそう簡単に死んだりしねえけど、暴力は違うだろ」
「心配だね。…でもストックホルムではないって君島言ってたんだろ」
「そうじゃないって否定してた。被害者はみんなそう言うんだろうけどなッ」
「確かに、本人の言葉を鵜呑みにはできないけど…」
祓川が窓から外を見てるので鈴木も同じ方を見ると、校門で一人赤井を待つ君島がいた。
数秒後、校舎から赤井が出てくる。
君島を見ることなくスタスタ歩く赤井の後を追って、君島も歩き出す。
「たまに本当に幸せそうな顔するよな、君島」
「ああー!もお!!なんであいつなんだよ!!」
* * * * *
/君島side
俺より大きい赤井くんに置いていかれないように気をつけながら帰ってるんだけど、・・・赤井くんの髪の毛につい目がいく。
見慣れないピン留めが赤井くんの前髪を固定している。
赤井くんのおでこが出ている。
ちょっと、新鮮。
「…おい」
「は、はいっ」
「今日泊まり」
「う、うん」
今日は赤井くん外泊か。
スマホを見ていた赤井くんが、今歩いてきた道を戻り始めた。
もしかしてここまで送ってくれたのだろうか、なんて自分に都合の良い事を考えながら、赤井くんを見送る俺は少しだけ緊張していた肩の力を抜いて、彼の後ろ姿を見る。
……はぁ、かっこいい。
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