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#2「謝罪」

赤井に外出禁止を言い渡され、携帯も取られてしまった君島。 そんな時に友人が訪ねてきて…。 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー /君島side 『家から出るな』 そう言われ、携帯も取り上げられた。 それが四日前。   「…どうしよう」 授業の遅れは休みの日になんとかするし、無断欠席なのは先生も赤井くんが怖くて何も言わないからいいんだけど。 俺は冷蔵庫の中を見つめる。 見つめたところでそこに、食料が出てきてくれる事はなかった。 明日食材追加しとかないとなぁと思ってた矢先に赤井くんから外出禁止を言い渡されてしまい、昨日とうとう食べ物の底が付いてしまった。 塩と砂糖とか、そういう調味料はあるけど他は何もない。 俺は塩をひと舐めして、しょっぱいなぁと思いながらベッドに倒れこむ。 気を紛らわすために勉強しよう。 ただ、教科書は学校に置いたままなため、たまたま持って帰ってた数学の教科書しか持っていない。 昨日も一昨日も暇つぶしに数学をやったから流石に飽きた。 「はぁ」 携帯ないしテレビもない。 仰向けに体勢を変えた俺は天井を見る。 体勢を変えても、天井を見ても、退屈さも空腹も変わらない。 「…赤井くん」 気づけば天井に向かって俺の好きな彼の名前を口に出してみた。 『気安く呼んでんじゃねえよ』 頭の中の赤井くんがスマホをから視線を外さずに冷たく答え、そんな自分の想像に俺は一人で笑う。 学校で見かける彼は人から声をかけられない。 学校の外だと整った容姿のせいか、時々スーツを着た人にモデルか何かの勧誘で声をかけられることはある。 赤井くんは見向きもせず、素通りしていく。 そんな彼だけど、俺が声をかけた時は一言返ってくる確率が高い、気がする。 俺が怒らせてない時の話だけど。 赤井くんが俺に暴力を振るう時は、100パーセント俺が悪い事をしたからだ。 周りの人はそう見えないのかもしれないけど、俺にとって、あれは赤井くんからのお仕置きで、それは赤井くんが俺をまだ見捨てていないという証拠でもある。 だから、俺の怪我を見て、憐れとか可哀想とかどれだけ噂されても気にならなかった。 俺にとって、その噂はただの噂で事実ではないから。 赤井くんは確かに暴力的なところはあるけど、優しい時だってある。 人に理解されにくい性格なだけで、悪魔や怪物ってわけではない…と、思ってる。 …でも、本当に怪物だとしても俺の気持ちはきっと変わらない。 『秀兎(シュウト)』 想像の彼に自分の下の名前を呼ばせてみる。 苗字ですら呼ばない赤井くんは、いつか俺の名前を呼んでくれるだろうか。 そして、いつか、赤井くんの下の名前で呼ばせてくれるだろうか。 赤井くんは自分の名前が嫌いで有名だ。 うっかりその名で呼んでしまえば、その人は病院送りと言われている。 それが単なる噂じゃないと知ったのは、彼の名前をうっかり呼んでしまった新米の先生が数日学校に来なくなった末にそのまま辞めてしまったという事件。 多くの生徒は赤井くんの下の名前を知らない。 俺もずっと知らなかったけど、この前どうしても知りたくなって嫌がる先生に無理矢理聞き出した。 何がそんなに気にくわないのか、俺には分からない綺麗な名前だった。 龍の華。龍華(リュウカ)。 少し女性のような名前に感じるのが気にくわないのかもしれない。 でも、凛としてる赤井くんにはぴったりな名前だと思う。 てか普通に格好いい、極道って感じで。 俺は窓の外を確認して、誰もいないことを確認する。 そして、一人ドキドキしながら布団に抱きついた。 もし、俺が赤井くんを下の名前で呼ぶなら、なんて呼ぼう。 くん付け、さん付け、いや、先輩とかちょっとかっこいいかも。 「…龍華、先輩」 いつもと違う呼び方に加え、好きな同級生を勝手に先輩にしてしまった俺は、思いの外恥ずかしくてバタバタと足をバタつかせた。 そして、息を整えて、もう一度口を開く。 「…龍華先輩。…龍、先輩、…っ」 耐えきれずに「うあ〜〜〜〜先輩呼びダメだぁ〜〜〜〜」と布団を抱きしめながら奇声をあげていると、玄関のチャイムが鳴って俺は心臓が飛び跳ねた。 ついでにベッドから落ちて、慌てて立とうとした足をテーブルにぶつけて悶絶する。 俺は何をしてるんだろう。 『君島?』 俺のドタバタに気づいて、チャイムを鳴らした人が心配そうな声で俺の名前を呼ぶ。 その声の主が祓川だと気づいた俺は、慌てて右足を引きずりながら玄関に向かった。 「ご、ごめん。えっと、ど、どうしたの?」 つい謝罪の言葉を口にしながら玄関を開ける。 すると、祓川の後ろからひょいと鈴木が顔を覗かせた。 「よっす。ほら、君島の教科書。来週テストなのにお前全部学校に置いてってるから届けにきたんだよ。数学の教科書だけ見つかんないってメールはしたんだけど、…大丈夫か?」 「えっあっ、な、何でもないよ」 「何でも無くはないだろ。なんで泣いてんだよ」 「ほ、ほんとに違くて。これは、チャイムに驚いて一人で勝手にベッドから落ちただけで…」 ゴシゴシと痛みで出た涙を拭いながら言うと、半信半疑な目で俺を見ていた鈴木が俺の背後を見る。 「アイツ今いねーの?」 「う、うん。赤井くんならいないよ」 「ならちょっと邪魔するぜっ」 「えっ」 「おい、鈴木…」 「あ、大丈夫だよ。退屈でしょうがなかったところだから」 「…よくはないんじゃないか。あの人、いつ帰ってくるか分からないだろ」 赤井くんが帰る場所がここみたいな祓川の言い方に、俺は緩みそうになった顔の筋肉を引き締める。 「そ、そっか。無理に上がらない方が…」 「赤井が来ようがなんだろうが関係ねえじゃん。友達が友達の家に遊びにきただけだろ。つーかここ赤井の家じゃねえし」 「お前が良くても…」 「ちょっとなら大丈夫だよ。最近赤井くんここに来てないから。あ、でも嫌なら祓川は無理に上がらなくても…」 「俺が嫌とかの問題じゃないんだけど」 「ご、ごめん…」 「…鈴木を一人で置いてって、窓でも割ったりしたら置いてった俺も同罪になる。こいつの気が済んだらすぐ帰らせるよ」 「祓川は俺のことなんだと思ってんだよ」 「サッカー馬鹿」 「それは違いない」とサッカー馬鹿を認める鈴木に俺はついつい笑ってしまう。 せっかく来てくれたんだから何か飲み物でも出したかったけど、出せるものが水ぐらいしかない事を思い出して、俺は申し訳ない思いで何も出さずにテーブルの側に座った。 「君島、今週学校来れんの?」 「ごめん、分かんない…」 「別に謝んなくていいって。この前配られたこれ、お前学校に置きっぱだったろ。今週のうちに集めたいんだってさ」 教科書と一緒に渡される進路調査。 「お前来れないなら木曜の帰りに寄って、金曜日に提出しといてやるよ」と鈴木が言う。 俺を心配してくれて、こんなに色々してくれる二人に、さっきまで自分がのんきに赤井くんで妄想していた事実が恥ずかしくて仕方ない。 俺は自分のいろんな感情に耐えながら「ありがとう」と言ってその紙を受け取った。 「赤井がいて受け渡し無理になった時は連絡しろよ。写メくれたら先生に伝えといてやるし」 「そういえば君島、携帯は?」 「今、赤井くんに渡してるから持ってなくて」 「…渡したんじゃなくて取られたんだろ、どーせ」 不機嫌気味に正しいことを言う鈴木に、俺は少し苦笑いになる。 「でも少し珍しいな。なんていうか、君島と四日も連絡取れない時は…、その、大抵暴力受けてるだろ…」 「えっと、今回は外に出るなって言われてるだけだから…」 「なんだよそれ、君島が学生だってわかってねえだろあいつ。それに携帯取る必要ねえじゃん」 前から思っていたけど、鈴木は赤井くんの事をだいぶ嫌っている。 というか、赤井くんに異様に厳しくて赤井くんの話になるといつも不機嫌になる。 聞いてる話だと、鈴木と赤井くんは中学校が一緒で、しかも友達関係だった時期があったらしい。 他の生徒と比べて、鈴木が赤井くんを怖がったりしないのは持ち前の性格だけではなく、きっとそれが理由なんだと思う。 赤井くんと何があったんだろうと時々気になるけど、俺は鈴木にも赤井くんにもその事を聞くことができずにいた。 祓川はというと、たぶん赤井くんとは何も接点はない。 ただ、祓川は素行の悪い人はいつも避けていて、赤井くんのこともかなり苦手そうだった。 そんな俺たち三人の出会いは入学式の時だ。 広い校舎のおかげで迷子になってた俺を祓川が助けてくれて、その後俺と同じ状況に陥っていた鈴木も助けて、一緒に体育館に行ったのが始まり。 赤井くんのいろんな噂が流れ始め、近づかない方がいいと何度目かの忠告を鈴木から受けていた時に、赤井くんからの呼び出しメール。 いじめを疑われて、問い詰められて、殴り込みに行こうとする鈴木を止めるために、俺は彼の恋人だと言うことを二人に白状した。 二人ともすぐには信じてくれなかったけど、今は二人とも俺の言葉を信じてくれている。 まあ、それはそれで二人には新たな心配をかけているんだけど。 「外に出られないと不便じゃないか?」 思い出に浸っていた俺は、祓川の声で現実に戻る。 「ちょっとね…」 「飯は?」 「実は、ちょっと…ね」 「食べてないのか?」 「ったく、アイツそういう所はちゃんとしろっつーの。携帯取り上げたら出前もできねえじゃん」 「何か買ってこようか?」 「え、悪いよ!」 「いいって、行こう鈴木」 「うまい飯作ってやるよ!」 「…作るの?」 「そんな、わざわざ作らなくても…」 「鈴木って、料理できんの?」 「食ってみろって、驚くから」 その驚くは、いい意味でなのか、悪い意味でなのか。 1時間後。 鈴木の作ったチャーハンは美味しくて、これには祓川も感心の表情を見せる。 鼻高々に料理を振る舞い「チャーハンだけは任せろ」と勝ち誇った顔をする鈴木に、祓川は「チャーハン以外はダメなんだな」とすぐに言葉の裏を暴く。 この部屋でこんなに楽しい食事をする日が来るなんて思っても見なくて、何かお礼ができたらいいなと思っている俺に、鈴木が真剣な表情を作って聞きづらそうに声をかける。 「なぁ…、その、君島はあいつの何が好きで付き合ってるわけ? 考え変わんねえの?」 急な質問に俺は少し黙ってしまう。 何が好きかなんて、 「…分かんない」 「分かんないって…」 「分かんないけど、一緒にいると安心するっていうか、一緒にいると、俺ってこの人が好きなんだなぁって感じるっていうか…」 口に出すのは少し恥ずかしくて、照れ隠しで笑いながらそう言うと鈴木が「あり得ねぇ…」と呟いた。 「あいつと一緒にいて安心するとか、お前ぜってー変」 「そ、そうかな…」 「鈴木、そろそろ帰るぞ」 帰る準備をして立ち上がる祓川に鈴木がブーイングする。 「まだ君島と一緒にいたい~」 「長居はよくないだろ」 「あ、俺は大丈夫だよ」 「ほらぁ、君島がそう言ってんだから大丈夫だって!」 「だめだって。俺たちがここにいる事、あの人に言ってないんだからバレる前に帰った方がいい」 「別に君島は外に出てねぇじゃん」 「外に出るなって事が、人と会うなってことだったらアウトだろ。俺たちの理屈が通じる人じゃないんだ」 祓川の言葉は間違っていない。 赤井くんは俺たちの言い訳が通じるような人ではない。 「ごめんね」 「謝んなって、明日の夜また来るわ。今度はもっと美味いチャーハン作ってやるよ」 「えっ、あれ以上に?」 「楽しみにしとけよー」 「うん、ありがとう。祓川も、ごめんね…」 「いいよ別に謝らなくて。勉強で分からないところあったらいつでも聞いて。携帯返してもらってからになるだろうけど」 「うん、ありがとう」 玄関先で二人を見送って、俺は扉を閉めた。 楽しかった。 その感情で心が満たされていく。 今日はシャワーじゃなくて湯船に入ろうかななんて思っていると、背後から、鍵をかけ忘れた玄関のドアがガチャリと音を立てて開いた。 「あれ、何か忘れ物…」 二人が戻って来たんだと思った俺は、ドアを開けたその人に体が固まる。 そこにいたのは赤井くんだった。 手にはコンビニ袋を下げていて、もしかしたら俺に食事を買って来てくれたのかもしれない。 「あ、ご、ごめんなさい…」 まだ何も言われてないのに、俺は謝罪の言葉を口にしていた。 赤井くんの顔が見れずにうつむと、カチャリと玄関の鍵を掛ける音。 ゆっくり近づいてくる赤井くんに、体が震える。  「ご、ごめんなさっ…、っ!!」 容赦なく前髪をつかまれて、壁に側頭部を叩きつけられる。 脳が揺れ、揺れる視界の中にいた赤井くんは、冷めた目で俺を見下ろしている。 壁にもたれながら倒れこみ、ごめんなさいごめんなさいと謝る俺の横を通りすぎた赤井くんは、コンビニ袋をテーブルの上に置いてポケットから煙草を取り出した。 謝り続ける俺の背後に立った赤井くんのタバコの煙を吐く吐息が聞こえる。 赤井くんの手が俺の後頭部に触れた時、外から慌ただしい二人分の足音が聞こえてきた。 その足音は、俺の玄関先まで来たと同時にドンドンッ!!と激しくドアを叩く音に変わる。 『おい赤井!! 開けろっ!!』 激しく叩かれるドアの音と一緒に鈴木の声が聞こえる。 『俺らがっ、勝手に押しかけたんだっ! 君島は家から出てねぇよッ…、ッ、だから、手ぇ出すな!!』 全速力で走ってきたのだろう、言葉を区切り区切り鈴木がそう叫ぶ。 叫ばなくていい。 赤井くんは俺に、何をしてもいいんだから。 後ろ髪を掴まれ、乱暴に立たされる。 声を出す暇もなく赤井くんはそのまま俺の額を玄関のドアに叩きつけた。 俺はドアにすがるように座り込み、泣きながら「ごめん、なさい…」と、蚊の鳴く声で赤井くんに謝り続けた。 今の激しい音に『今のヤバいって…』『赤井てめぇ!!』と、二人の声が聞こえて来る。 その声を聞く赤井くんが、煙を俺のうなじに吹きかける。 「…あいつ、自分が帰んねぇともっと酷い目に合うって、いつ気付くだろうな」 ひどく冷たい声でつぶやきながら、赤井くんの指が俺の後ろ髪を撫でる。 そしてその指がうなじにかかる。 ジュッ 「いぎッ、ッ、ぃ…ッ!」 外に聞こえないように抑えるつもりだった声が、食いしばった歯の隙間からこぼれてしまう。 うなじが焼ける酷い痛みに俺は冷や汗を流しながら、止まっていた息を吐いた。 背後からライターの着く音が聞こえる。 少しして、赤井くんがタバコの煙をうなじに吹きかける。 焼かれてじくじくと痛むそこを赤井くんの息で撫でられ、俺は次を覚悟して両手を握りしめた。 二度目の根性焼き。 それは一度目と同じ場所に押し付けられた。 あまりの痛みに、外で鈴木が怒鳴ってるはずなのに俺の耳には何も聞こえなくなる。 二度目の痛みに耐えて小刻みに息をする俺の背後で、またライターの火が着けられる音。 早く二人に帰ってもらわないと、きっと終わらない。 何とかして、二人に帰ってもらわないと。 俺が口を開いた時、首筋に熱を感じた。 三回目が来ると思って、目を閉じる。 首が焼けるように熱い。 歯を食いしばり、その熱に耐える俺はその熱が冷めないことに気づいた。 赤井くんはタバコを皮膚に押し付けず、火が消えない状態を保ったまま俺の首の皮をタバコの先で炙る。 終わりのない痛みの辛さというのは絶望的で、声が出ないように閉じていた口から終わらない痛みに耐えきれず呻きが漏れ始める。 「ぅ、ぁ、いッ…」 『君島!?』 「ぁ、ああっ、ひ、ぎッ」 『赤井開けろ! てめぇ、このっ』 『警察に…』 「ッ、帰って!!」 言葉を選ぶ暇はなかった。 俺の叫びに外の二人が静まり返り、それと同時に俺の首からタバコが離れる。 額から滴り落ちる自分の血と汗を見ながら、俺は言葉を続けた。 「帰って…大丈夫だから…っ」 『そんなわけッ』 『鈴木!』 鈴木の声を祓川が遮る。 数秒後、ガンッ!と大きな音が聞こえた後、駆け足で一人分の足音が去っていく。 その後『ごめん』と祓川の声が聞こえ、祓川もドアの前から離れて行った。 謝る必要なんてない。 謝らないといけないのは、俺だ。 俺は二人に心配かけさせ続けている。俺と友達になってしまったばかりに…。 友達を作らなきゃよかったかもしれない。 でも、もう遅い。 あの二人は優しいから、一度作った友情を簡単に白紙へとは戻してもらえない。 二人の足音が聞こえなくなった頃、赤井くんにわき腹を蹴られる。 咳き込む俺を見下ろしていた赤井くんが、俺の目線に合わせるようにしゃがんだ。 「ゴホッ、…ごめっ…なさ、い」 「何度目だ」 「ごめんなさっ…ん゛むっ」 彼の薄くて大きな手が俺の口を塞ぎ、そのまま床に押し倒された。 もう片方の手が俺のTシャツを捲り、そして、露わになった乳首を思いっきりつねられる。 「ぅんン゛ッ!」 痛みにビクッと体を震わせ痛みを与えるその手を無意識に掴んでいた。 「何度目だって聞いてんだよ」 いつもより低い声で言った赤井くんの言葉に、俺は震えながらゆっくり掴んでいた手を離し、床に置いた。 答えなきゃ、…でも、何度目か分からない。 もう何回赤井くんを怒らせてるか、分からない。 「い、ぅ、ッ…!」 潰れるんじゃないかと思うほど、強い力でつねられ続け、俺はその痛みが終わるまで、ただひたすらに指が離れるのを待つ。 首の痛みを忘れるほどつねられ続け、やっと指が離れたそこは赤く腫れてジンジンと熱い。 ツンと立たされた乳首の先を、赤井くんの指先がかすめる。 その瞬間、下腹部に快感が走り、俺は「ぅあっ」と情けない声をあげてしまう。 「感じてんじゃねえよ」 「はっぁっ、ゃ、ッぁ、ひ、んッ」 感じちゃダメだ。 言われた通りにしたいのに、俺の体は俺の意に反して、赤井くんから与えられる刺激を快感として俺の脳に伝える。 いじめられた右の乳首を指で弾かれるたびに声が漏れ、腰が快感に揺れてしまう。 右乳首だけで簡単に勃起してしまった俺は、情けないやら怖いやら恥ずかしいやらいろんな気持ちに襲われながら、赤井くんを見る。 赤井くんの膝が俺の玉を押し上げ「んぅッ」と真っ赤になりながら声を上げる俺から体を離した。 「勃たせてんじゃねぇよ、淫乱」 「こっちこい」と玄関からベッドへと赤井くんが移動する。 俺もよろよろと立ち上がりながら、赤井くんの後を追う。 『勃たせてんじゃねぇよ、淫乱』 赤井くんの言葉が脳内麻薬のように頭をぐるぐるぐるぐる回り、体が火照る。 この流れはきっと、お仕置きセックスだ。 淫乱の俺を、赤井くんがこれから抱いてくれる。 こんな淫乱でも、抱いてくれる…。 俺を見た赤井くんが、俺の心中を察したのか深いため息をついた。 「…マジで変態だなお前」 「ごめっ、な、さい…」 「下、脱げよ」 ベルトを外しながら赤井くんが、ベッドに乗る。 その姿に、体が期待して震える。 トロトロしてる俺にしびれを切らした赤井くんが、パンツに手をかけた俺の腕を引っ張って乱暴にベッドへと押し倒す。 何も言わずに、赤井くんの指が俺の首を這う。 そしてその指にゆっくりと力が込められる。 首の後ろに回る赤井くんの指がタバコを押し付けられた部分に触れれば、痛みに俺は顔を歪ませた。 だけど赤井くんの指の力は強くなるばかりだった。 焼かれた傷をえぐられる痛み、頭に酸素が行き届かずにしびれていく思考に、視界が霞んで行く。 「ッ、…ぁ……ッ」 声も出せずに、死ぬかもしれないと言う恐怖に涙が頬を流れた。 恐怖でもがく足は、いつのまにか快感に耐えるもがきに変わる。 首を絞められるのは苦しい。なのに、この苦しさがひどく甘い。 意識がなくなるギリギリで赤井くんの指が離れ、締まった喉が開き、俺は咳き込みながら酸素を取りこむ。 「げほっ、げほっ、っ、ぁ、あっ! ああっ!?」 咳き込んでる最中、先走りでぐちょぐちょになっている俺の性器に赤井くんの指が絡み、卑猥な音を立てながら扱かれ、俺は酸素を取り込むために開けていた口が塞がらなくなる。 「ちゃんと足開け」 「ひっ、あっ、んんっ、ンんん〜ッ、っ、ぅう」 言われた通りに足を広げる。 赤井くんの言われたことをそのまましただけだ。 それだけのことなのに、ひどく体が興奮して、赤井くんにしごかれるその指の刺激の気持ち良さが何倍にも増した。 あと少しというところで赤井くんの指が離れ、俺はイキたいという抗いがたい体の衝動をシーツを掴んで必死に耐える。 しかし耐えてる時間はそう長くなかった。 赤井くんが俺の腰を掴み、ローションで滑りのよくなった赤井くんの性器が容赦なく俺の中を突き上げる。 最初から遠慮なく、一番弱いところをゴリゴリ押し潰され、遠慮なく腰を打ち付けられ、そんな乱暴にされて耐えられるわけがない。 「ぅあっ!? あっ! あっあっ! ッい、ッぐぅ、〜〜〜ッ!!」 あっという間に絶頂を迎えた俺は、腰をびくびくと震わせて射精する。 そんな俺に構うことなく、赤井くんは乱暴に腰を動かし続ける。 一番敏感になってる状態の中をかき回されて、止まらない快感に俺は堪らず逃げるように体をひねった。 「ああっ!? やっ、ああっあっ!?」 「逃げんな」 「だって、あッ、ひっ、い、きついッ…ぁああッ!」 今日やばい。 さっきイッたのに、もうくる。 ちがう、漏れちゃう、漏れちゃうッ。 射精ではなく、潮吹きしそうな腹部の違和感。 弱いところをガンガンに突かれ、出る、出るッと目をつぶった瞬間、精液と先走りでベトベトの俺の性器が赤井くんの手に掴まれる。 「ぁああっ!? やっ、なッ」 「二回も勝手にイこうとしてんじゃねえよ」 「ぁ、今ッ、ぃ、〜〜ッ」 赤井くんに性器の根元を掴まれ、出口を見失った体液が逆流して下腹部へと戻っていく。 その状態のまま赤井くんがまた腰を打ち付け、俺の腰がびくんと跳ねる。 「やっ、ぁああッ! イキたっ、ゃ、ひぐっ、ぅ、いッ」 モノをキツく掴まれながらもピストンは激しいままで、良いところを的確にガンガン突いてくるもんだから、耐えられたものじゃないその快感と出したい欲求に頭が回らなくなり、俺は必死に懇願の声を出した。 「やっ、もっ…むりッ! っはあ、あぅ、ッ、や、あっ」 「っと、堪え性ねぇな」 「だ、てっ、気持ちいッ、おねが、ぅ、イキた…いッ」 「…はっ、…いい、イけ」 「あっ、あっぁあッ! はっ、ぁああ!!」 一番奥に赤井くんの精が吐き出されると同時に、俺も体を震わせながら精液と潮の混ざった体液をトプトプと零して下腹部を濡らしていく。 赤井くんのモノが俺からズルリと抜けていき「ひ、ぅんっ」と俺は最後の喘ぎを漏らす。 しばらく震えていた体も次第に力が抜けて、全身に力が入らず、脱力感で頭もぼんやりする。 赤井くんの手が汗でおでこに張り付く俺の髪を搔き上げ、親指でおでこを擦る。 触れられただけでピリリとした痛みが走り、そういえば血が出ていたんだったと思い出したけど、赤井くんの手の温もりが心地よくて、瞼が重くて開けていられない。 ベッドを綺麗にしないと、出されたものも綺麗に…、それから、赤井くんに謝んないと…、それから…二人にも謝って…、…。 「明日から、外に出ていい」 心地よい低声を聞きながら、俺はゆっくりと意識を手放そうとした時、赤井くんが力の入らない俺の足を持ち上げる。 そしてグチュンとまた俺の中に性器を入れられて、体が快感に叩き起こされる。 「っあ、ひッ…、ッ!」 「まだ終わってねぇよ」 「っ、あっ、ごめんなさっ、あッやっ…んんっ、ひッ…ああッ!」 ** * * * 「昨日は、その、…ごめんなさい。これは、…お詫びです」 差し出したお詫びの品を見た二人が、俺の顔を見る。 二人の無言がきつくて、俺はもう一度「昨日の、お詫びです…」と、小さく呟いた。 自分で貼ったおでこと首の後ろの絆創膏。 赤井くんが本気で怒るときはこんなものでは済まない事を知る俺は、今回はたんこぶと火傷程度の軽症でよかったと思っている。 ただ、服で隠せる場所ではなく、俺を見るたびに視界に入ってしまうその傷は二人の表情をいつも以上に曇らせてしまう。 そう予想していた俺は、少しでも早く空気が良くなるようにとお詫びの品のつもりで買った、キモカワシリーズの「目のイってる蜘蛛の巣」と「目のイってるトカゲの尻尾」のキーホルダーを二人に差し出す。 しかし、二人は無反応。 失敗した…と思いながらも「目のイってる3段目の跳び箱もあるよ」と言ったところで鈴木の顔が歪み、そして吹き出した。 「チョイスがキモすぎんだよ!」 「ごめんなさい」 「なんで君島が謝んだよッ。悪いのは赤井だろッ」 「ねえ、これどっちが俺の?」 「えっ」 「え、貰ってくれるの?」 「くれるんでしょ? 三人おそろでつけようか」 「これを? 冗談だろ」 「いいじゃん。キーホルダーとかつけた事ないけど…、スマホに付けられるかな」 「マジかよ、おい、君島のせいだからな。他にもっとあっただろ。こんなん家族と部活のやつらに見つかったらぜってぇいじられる」 そう言いつつも、鈴木は目のイってる蜘蛛の巣を奪い取り、「じゃあ俺はこっちね」と祓川は目のイってるトカゲの尻尾を受け取ってくれた。 「これがキモカワ? キモいだけじゃん」とぼやく鈴木に「この目が愛嬌あるんじゃない?」と返す祓川。 どちらかと言うと俺も鈴木と同意見だけど、今日のことがきっかけとなり、俺にとって目のイってるシリーズはちょっと特別なものになった。 そして実は「目のイってる目」という目玉に目のついてるレアキーホルダーも俺は手に入れていた。 でも、これを渡したい人は別にいる。 まだ、彼にこのキモカワシリーズを渡す勇気はないんだけど。 いつか彼を下の名前で呼んでも怒られないぐらい親しくなれた時に、渡してみたい。 目の前の友人たちを見ながら、俺は一人でこっそり思った。

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