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【*】順調
俺とワルトの付き合いは、順調に続いている。多分。
最近では、塔の人々も、俺達が一緒にいても何も言わなくなってきた。
それがまた、気恥ずかしい。
俺は仮眠室の脇のシャワールームで浴槽に顎まで浸かり、真っ赤になっていた。決してのぼせたからではない。ワルトとの関係が進むにつれて、俺は自分の外見について再び考えるようになっているのだが――どうにも釣り合うようには思えないのだ。
努力すれば、美貌の魔術師と俺は言われる事もある。だが特に気を遣っている様子も無いのにワルトは、元の造りが良いし、整った顔立ちに綺麗な髪をしている。並んでいると、自分が虚しくなる。本当に俺で良いのだろうか……?
当初は強引に誘われて始まった関係のはずなのに、今では俺の方が、ワルトを好きな気がしてならない。ワルトは変わらず俺を好きだと言ってくれるが……俺の中でワルトの存在はどんどん大きくなっていくから、愛の比重が偏り始めた気さえする。
「なんで……」
こんなにも好きになってしまったのだろう。最初は強引で、次は外堀を埋められて、以後はドロドロに愛されて……俺は身を委ね、絆されただけのはずだったのだが、今では明確に、俺の方がワルトを好きだと感じてならない。
「嬉しいけど、そんな事は無いから!」
その時、急に浴室のドアが開いた。驚愕して、俺は顔を上げた。するとワルトがそこに立っていた。この仮眠室の合鍵を渡したのは大分前ではあるが、まさか……俺の心を、今も読んでいたのか? 恥ずかしすぎる……!
「俺、本当にシルク様を愛してます。俺の方が絶対愛してる。シルク様がそんな風に考えてくれるのは――正直嬉しいけど、大きな間違いだ」
歩み寄ってきたワルトは、浴槽の中で呆然としている俺の前に立つと、屈んだ。そして俺の額にキスをする。思考を見透かされていたのが恥ずかしすぎて、俺は目が潤んできたのを自覚した。
「その艶やかな黒髪も、綺麗な瞳も、シルク様こそ外見が素敵すぎる。俺は、シルク様の横に並びたくて、これでも結構努力してますから!」
「え?」
「シルク様の綺麗な体は誰にも見せたくないし、というか見せたら許さないし、見た相手は絶対にどうにかする自信しかないですけど――本当は、シルク様の事、誰にも見せたくないくらい全部好きです」
俺は上手く言葉を見つけられなかった。だが段々のぼせそうになってきたので、浴槽から出る。すると踵を返したワルトが、バスタオルを広げて俺の前に立った。照れくさかったが、その腕の中に収まってみる。すると俺の体を拭きながら、ワルトが細く長く吐息した。
「大好きですからね!」
その声を聞き、俺は赤面しながら目を閉じた。ワルトの言葉を、信じる事に決めながら。
このようにして、俺達の付き合いは、今の所、順調である。
その夜も、俺は散々喘がされた。
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