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【*】捨て活とキス

 ――過去に書いて、表に出なかった資料群を捨てようと試みた。  どうせもう、誰も使わない。誰に見られることもない。 「何してるんですか?」  するとシャワー上がりのワルトが、そっと俺の肩に触れた。振り返り、俺は微苦笑する。 「資料の整理だ」 「捨てちゃうんですか?」 「ああ、そのつもりだ」 「つまり、いらない?」 「ああ」  俺が頷くと、ワルトが濡れた髪をタオルで拭きながら頷いた。 「じゃあ俺に下さい」 「は?」 「俺、シルク様の記したものは全部ほしいですもん」 「でも、これらは何の役にも立たないし――」 「ううん、それは気のせい」  ひょういと俺の前から資料を取り上げ、ワルトが目を伏せた。 「シルク様が生み出したものに無駄なんかゼロです」 「かいかぶりすぎだろう」 「俺がどれだけ、シルク様の事を尊敬していて、大好きかまだ伝わってないみたいですね」    その言葉に俺は赤面した。  今となっては、実力は紛れもなくワルトの方があるというのに。 「お前は、本当にそんなに俺のことが好きなのか?」 「大好きです。愛してます」 「……そうか」  こんな風にまっすぐに言われると、赤面しない方が無理だ。だが俺には、一つ聞いてみたいことがあった。 「俺の何処が好きなんだ?」 「存在です」  ……答えになっていない。だが、それなのに頬が熱くなってくるから困る。 「ねぇ、シルク様」 「ん?」  その時、ワルトが俺に歩み寄ってきた。何気なく眺めていると、正面から抱きしめられた。 「なんでそんなに隙だらけなんです?」 「へ?」 「一応俺の事を好きになってくれたから、だと思っておきますけど」  ワルトはそういうと、俺の後頭部をなでてから、不意に口づけてきた。  柔らかなその感触に、俺は瞠目する。 「その資料、いらないんなら本当に俺に下さいね」 「あ、ああ」 「それに、シルク様の事ももっと下さい」 「へ?」 「俺、もう我慢できないです」  そういった直後、傍らの寝台に、ワルトが俺を押し倒した。後頭部がトンとシーツに触れた。髪が揺れる。驚いて伸ばした右の手首を、ギュッと掴まれた。 「シルク様が、欲しい」 「っ」 「俺に下さい」  そうして、再び熱烈な口づけが降ってきた。ギュッと目を閉じ、俺はそれを受け入れる。口腔に忍び込んできたワルトの舌が、俺の舌を追い詰める。絡めとられて吸われると。息苦しくなった。 「好きだ、シルク様が」 「っ、は……」 「シルク様は? 俺の事、どう思ってる?」 「……言わないと分からないのか?」 「分かりません。嫌がられてないとは思ってるけど、直接聞きたい」  そう言ったくせに、直後再び唇を塞がれたから、俺は何も言えなくなった。 「ぁ……」 「好き、好きだ、シルク様」  俺は涙ぐんだ瞳を、ワルトに向けた。こいつは、頭がいいはずなのにたまに馬鹿だと思う。 「この俺が、好きでもない奴に唇を許すわけがないだろう? 何度も」  きっぱりそう言ってのけると、ワルトが目を見開いた。そしてそれから破顔した。 「――俺、幸せです」

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