5月の連休、3月末に出たばかりの実家に、もう帰って来た。 　まだいいだろうと思っていたのに「初めて親元を離れた息子が心配！」 と、御丁寧に新幹線の切符を送りつけてきたのだ。 　地元で「どうなの？東京は！」って会う人ごとに聞かれるのは予測通り。型通りにニギヤカダヨー、友達デキタヨー、チャント食ベテルヨ、チャント寝テルヨーを繰り返して答える。 　…心なしか片言なのは、大学で知り合った留学生の影響か。 　『衣笠さんトコの息子さん、東京の大学に進学したんですって』 　……こんな田舎では格好の話のネタだ。 　学費諸々用意して送り出してくれた実家で愚痴をこぼす気はないが、僕は正しくは“東京の”大学に行ったのではない。箱根駅伝にも出場している東京の大学の、学部丸ごとポツンと飛ばされた、某県の僻地、温泉が有名な田舎町にいるのです。 　おまけに、学生の大半が留学生で、日本語が通じない。 　国際観光学部って、要するに、人気が無い地方自治体に誘致された大学が大量の留学生を受け入れ、国の助成金で潤い、人手不足のホテルや観光施設は留学生を住み込みで雇い入れ労働力を確保、各国語が通じるオンセンとネットで拡散されて、世界中から観光客が急増。win-winな関係の完成なのだ。 　大学も街も多国籍な面々に囲まれ、ここが日本なのかどうなのか不安になる有様。 　……こんな説明、誰の需要もないから、もう東京に居るってことにしよう。 　面倒なウソは御免だから、夏休みは帰省しないと心に決めた。