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第16話

○●----------------------------------------------------●○ 1/25(火) 本日、『春雪に咲く花』の方のPV増加数が1ビュー分 多かったので、こちらを更新させていただきます。 動画を見てくださった方、ありがとうございます! 〈現在レース更新中〉 ↓↓以下の作品の1話動画のPV増加数に応じて、 その日更新する作品を決めさせていただいていますm ◆『君がいる光』(幽霊×全盲の青年 ) https://youtu.be/VPFL_vKpAR0 ◆『春雪に咲く花』(探偵×不幸体質青年) https://youtu.be/N2HQCswnUe4 ○●----------------------------------------------------●○ 牢への帰り道。組の者の目が光る中、陽向は考えに没頭していた。 ——海斗はバカか、それともバカなふりをしているだけなのか。 前々から、自分も気になっていた問題だ。 果たして、海斗は他人を騙そうとして騙していたのか。 そして、今まで自分と一緒にいたのも騙すことが目的だったのか。 これがわからない限り、前に進めない気がした。 誠吾(せいご)との取引のこともそうだが、気持ちの面でも。 (玄沢さん……) 会ったのは今日、いや昨日だというのに、その存在をとても懐かしく感じた。 できることなら、今すぐここに来て欲しい。あの広い胸で抱きしめて欲しい。 そんな風に思う自分が不思議だった。彼と会う前の陽向はいかに他人に頼らず、甘えずに生きていくかが重要だった。 しかし、玄沢は今ここにはいない。それに自分で撒いた種を人に尻拭いさせるなんて海斗みらいなことはしたくない。 陽向が平手で自分の頬を思い切り叩くと、後ろの組員がギョッとして一歩下がった。 「あ、帰ってきた!」 牢の中から、海斗が元気よく手を振ってきた。能天気な様子に、緊張感が一気に削がれる。 見ると、海斗は札のようなものを持っていた。 「何やってんの?」 「花札だよー」 海斗は牢屋前のパイプイスに座っている男を指さした。若いながらでっぷりと太ったスキンヘッドの男が、決まり悪そうに笑う。 「や、どうしてもって言われたんで、ちょっとだけ……」 「ボンレス君って言うんだ。俺がつけたんだよ。陽向もそう呼んであげて」 海斗が札を捨てながら言った。 「え、それはちょっと……悪いし……」 「いえ、いいんです。俺、学生時代、友達とかいなかったから、あだ名つけてもらえて嬉しいっす」 ボンレス君は、人好きのする顔でへらりと笑った。どうやら、彼が誠吾の言っていた護衛らしい。 さすがというか何というか、海斗はこんな短時間で彼を懐柔してしまったようだ。 (本当、こうゆうところはすごいよな……) 詐欺グループも、海斗のこうゆう「人たらし」の才能に目をつけて白羽の矢を立てたのだろう。その判断は、あながち間違いではない。 「じゃ、すいません。鍵かけるんで……」 ボンレス君は陽向が牢に入ったのを確認すると、鍵をかけた。 陽向は入り口の格子を握り、ボンレス君に訴えかける。 「やっぱり、同じ牢じゃなくちゃ駄目? 別にスイートにしろとか言わないから、せめてこいつと一緒のところは」 「すいません……誠吾さんが、一緒に見張っとけって。この牢屋も誠吾さんが色々こだわって作らせたもので、まだ一つしかなくて……」 海斗が札を見ながら、うんうんと頷いた。 「あぁ、そうゆうところあるよね、あの人って。本物しか認めないっていうか。あの着物も、いかにも一級品って感じだし?」 「さぁ、俺、教養ないんで着物とかもよくわかんないっす」 「俺は実家で見慣れてるからね。あの人が着ているのが、とんでもなくいい品だってのはわかる。きっとあの人自身、本能的に〝本物〟を見極める力に長けているんだよね。だからまがいモノなんて人でも物でも、眼中に入らない。いや~カッコイイなぁ、そうゆうの」 世間話をするように、海斗は何気なく言った。 これこそが、海斗の才能だ。 自然に、息をするように人の本質を見切ってしまう。しかも、それをひけらかしたり、それで人を貶めようとはしないから、相手の方も「自分のことをわかってくれる」と、いつの間にか警戒を解いてしまうのだ。 (果たして、これは無意識なのか? それとも計算?) 本物を見極める才能の持ち主である誠吾でさえ、海斗の正体を見切れなかったのだ。 なのに、自分がわかるのだろうか。——いや、やらなければいけない。これからの将来のためにも。 (でも、どうやって……?) じっと観察していると、 「陽向も花札やろーよ。どうせここにいても、やることないしさぁ」 と、海斗が札を渡してきた。 「花札」 ピンときた。これは使える。 海斗は賭事に弱い。飲めりこめば飲めり込むほど、理性をなくし、危険な賭にもでようとする。 その隙をつけば、簡単に真実を言うかもしれない。 「ふふふ、のった! その勝負!」 陽向は袖を捲り上げ、渡された札を手に取った。 「よし、きた!」 陽向は自信たっぷりに札を出した。海斗とボンレス君が、同時に悲鳴を上げる。 「ちょっと、陽向ぁ~これで何勝目だよ!」 「ふふん、海斗が弱すぎるんだよ。ボンレス君だって、俺と同じくらい勝ってるし」 「いやぁ~自分なんてまだまだっす。陽向さんの足下にも及びません」 「そんなことないって、ふはははっ! よし、次、つぎ……——」 はたと、手が止まった。 (そういえば、今って、何時だ?) 牢屋には時計がないから確認できない。しかし誠吾と会ってから、数時間は経っていることは確実だ。 波が引くように、サアッと我に返る。 (さ、最悪だっ……! 海斗を嵌めるつもりが、自分が熱中してどうするっ……!) どうやら賭事で我を失いやすいのは、自分の方だったらしい。 「陽向? 大丈夫?」 打ちひしがれていると、海斗が顔をのぞき込んできた。呑気そうなその顔を見たら、プッツンと神経が切れた。バンバンと床を平手で叩く。 「くそっ~~お前は、どうしてそうなんだ!? 今の状況がわからないのか!? 自分がどうなるのか気にならないのかよっ!? 山登りかもしれないんだぞ!?」 「えっ、山登り? いいね、山登り。地下牢もSMみたいでぞくぞくするけど、やっぱりそろそろ新鮮な空気が吸いたいなあ」 「お前って奴は、本当に……」 頭が痛くなってくる。 これがバカのふりをしているだけなら、相当な演技力だ。アカデミー賞も夢じゃない。 「陽向? 具合でも悪いの?」 「……そうだよ。お前のせいでな」 「もぉう、陽向はいつも考え過ぎなんだよ。お前は沖縄を離れてもう十年だから、すっかり神経質な都会人になっちゃってさ。沖縄の碧い空と海を思い出せよ。そしたら、何もかもどうでもよくなるからさぁ。ほら、なんくるない。なんくるないさぁ」 「うわっ、俺初めて聞きました。生なんくるないさ!」 ボンレス君は、変なところで感動していた。 「え、そうなの? じゃ、ボンレス君も一緒に」 「え、ええっと、なんくるないさ?」 「違う違う。もっと『さぁ』をだらーんと伸ばして。ほら、陽向も! なんくるないさぁ!」 大声で「なんくる、なんくる」を大合唱する男たちを見ていたら、自分の意図に反して吹き出してしまっていた。自棄の気持ちも相まって、笑いが止まらない。 「ったく、お前は……なんくるあるから言ってるのに……」 「陽向……」 目じりの涙を拭いていると、海斗がキョトンとした顔で見つめてきた。 「え? 何?」 「や……別に……」 海斗はしばらく宙を見て何やら真剣に考え込んでいるかと思ったら、急にボンレス君に視線をやった。 「ねぇ、ボンレス君。君さ、男同士とかって、興味ない?」 「はいっ!?」 驚きのあまり、ボンレス君の手から花札が落ちた。 「何ですか、急に!? 興味ありませんよ! まぁ確かに、ヤクザじゃそうゆうのも多いって聞きますけど……」 「でしょ。じゃぁ、勉強してみる気ない? 今後の出世につながるかもしれないよ」 「は……?」 意図を汲めていないボンレス君の前で、海斗が陽向の肩を抱いた。 「あのね、実は俺たち、付き合ってるんだ」 「ちょ、海斗っ!?」 相手の肩を押し返すが、びくともしない。牢獄筋トレは効果抜群らしい。 ボンレス君が目を泳がせる。 「……はぁ、まぁお二人の関係は誠吾さんから少し……でも、それが何か?」 「ボンレス君もさぁ、こんなところに夜中じゅういたらタマるでしょ。まだ若いんだし?」 「は、はぁ……まぁ」 「じゃぁさ、ちょっとくらい目をつぶってよ。何なら見ててもいいし」 海斗は、隣の陽向を指さした。 「こいつ、陽向ね、こうガミガミカリカリしてるようにみえてね、あん時は、すごおく可愛いんだよ。何だかんだ言って尽くしてくれるしさ。それがまた必死でたまらないの。見てるだけでヌケるよ」 海斗の手が、卑猥なジェスチャーをする。 (こいつ、何考えているんだっ……!?) 陽向はパニックのあまり、口をパクパクさせることしかできなかった。 一方のボンレス君は不審そうにしながらも、海斗の言葉にじっと耳を傾けていた。 「ちょっと見てみたいと思わない? 後学のためにもさ」 海斗がウインクしてみせると、ボンレス君はハッと我に返った。 「で、でも俺、誠吾さんにバレたら……あなたを必要以上に陽向さんに近づけさせるなって」 「え~大丈夫。あの人、気にしないよ。口ではどう言ってたとしても、あの人が気にするのは〝真実〟だけだから。それを得るためなら俺たちみたいな小者、どうなろうと知ったこっちゃない。あ、何ならさ」 海斗が名案、とばかりにひとさし指を立てた。 「ボンレス君がその気になったら、陽向もすっごいサービスしてくれるかもよ」 「ちょ、お前……! 何、言って——」 抗議の声をあげようとした口を、海斗の手が塞ぐ。耳元に、いつもよりかさついた声がかかる。 「しっ、黙ってて。今いいところなんだから」 「はっ!? いいって、お前にとってだろう!?」 「だーかーらー、ふりだよ、ふり! もしボンレス君が俺たちのイチャイチャぶりを見てその気になったら、鍵を開けてくれるかもしれないでしょ?」 「それで俺が襲われてる間に、お前はとんずらか?」 「まさかっ、一緒に逃げるんだよ」 「信用できるか! だったら、お前がボンレス君に掘ってもらえばいいだろう!」 「いやぁ~。俺、基本的に女の子に掘ってもらうのが好きなんだよね」 「と、倒錯してる……」 「まぁまぁ、それにさ——」 海斗の手が、するりとシャツの中に入ってきた。 「久しぶりに俺も、陽向の乱れる姿見たいし」 「……ひゃっ!」 耳朶を噛まれ、びくりと身体が浮く。 「ちょ、海斗、やめっ……!」 「ね。見て見て。俺の陽向、可愛いでしょ?」 返事の変わりに、ボンレス君が息を呑む声が聞こえた。 ぬるりと、海斗の舌が耳奥に入ってくる。 「海、斗っ……やっ、そこはっ……!」 「いい感じ、いい感じ。この調子なら、すぐにでも逃げられるよ」 からかいを含んだ海斗の息が、耳にかかる。 (……くそっ! やっぱり、こいつ、策略家だっ!) 徹底したバカぶりは、やはり獲物を油断させるための作戦だったのだ。 くそっ、これ以上、騙されてたまるかと、必死にもがく。 「ちょ、ちょっとっ、陽向ぁ~ 大人しくしててよぉ~」 じれた海斗が、陽向の両腕を背中で拘束した。情けない声とは対照的に、抵抗を許さぬ強靱な手つきだ。 「少しは協力しなよ。ここから逃げたいんでしょ?」 「くそっ、離せっ……! そんなの当たり前だっ……!」 「なら、もうちょっとサービスしてよ。せめて、大人しく感じてるふりとかさ。ボンレス君も見てるんだし」 「だったら、お前がその気にさせてみればいいだろうっ!」 売り言葉に買い言葉。怒りとパニックのあまり、つい口が滑ってしまった。はたと気づいた時には遅かった。 「ったく、本当にお前って——」 ため息まじりの低い声がしたと思ったら、腰をグイと掴まれた。そのまま四つんばの状態にされてしまう。 「陽向。ほんとお前って、可愛いすぎ」 「ちょ、海——!?」 チノパン越しに海斗の半勃ちが押しつけられ、ペロリと相手が舌なめずりする音が牢屋に響く。 「なぁ、いいよな? 最後までして。俺、我慢できなくて……」 「まっ——お前、さっきふりって……!?」 「陽向が煽るのが悪いんだろう。恨むなら、自分の短気を恨め」 ずるりとチノパンを引き剥がされ、尻を掴まれた。はぁはぁ、と海斗の荒い息が聞こえる。 (やっぱりこいつ、計算とかいう訳ではなく、ただヤりたいだけだったんじゃないのか……!?) そう思ったら、そうとしか考えられなくなった。 なぜって、海斗の優先順位はいつだって、その時の欲望なのだから。 (くそっ、くそっ、くそっ! やっぱり、こいつは正真正銘のフムリンだっ!) 腰を掴む海斗の腕を何とか引き離そうとするが、うつ伏せの姿勢で両腕をとられているとなると、できることは限られてしまう。 「ふふ、どうしたの? 腰振っちゃてさ。そんなに、俺のことが欲しいの?」 「そんな訳あるか! このフムリン(アホ)! クーパー(ばか野郎)! ゲレンゲレンパー(くるくるパー)!」 「ったく、そうゆうの逆効果って、いい加減気づきなよ」 海斗の指が、後ろの入口あたりをしつこく撫でる。 「くっ……」 これ以上、一般人にはよくわからない海斗の興奮のツボを刺激したくなくて、もがくのを諦める。 ——もしかして、このままヤられてしまうのか? 屈辱感に耐えきれず、陽向は自らの腕の中に顔を埋めた。

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