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第15話
「まぁ冗談とかではねーから。」
わしゃ、と髪を梳くように撫でられる。
「びっくりするくらい綺麗に腰ぬけた…。」
まさか事後がこんなになるだなんて知りたくなかった…。なんて行為を思い出し顔色を信号機のように変える旭に、仕方ないなと言う顔で柴崎が続ける。
「俺のせいですね。」
「整形外科案件。」こ
「行くなら肛門科じゃね?」
「やかましいわ!」
腰は抜けても突っ込みには手を抜かないのが、刷り込まれた性というやつだ。突っ込まれた方ではあるけれど。だが、その気軽さに小さく不安を覚えた。
「まぁ風呂わかしてあるから温まってこい、上がったらマッサージしてやっから。」
「…なんで」
なんでそんな普通なんですか。
「あん?」
「やっぱなんでもない!!お風呂お借りします!!」
同じ空間から逃げる。後ろから、そこ突っ切って左なー!とナビが飛んできたが、返事をする余裕もなかったので無視をした。
女々しくも、抱かれた理由を聞こうとしただなんて認めたくなかった。
柴崎さんだって、聞いてほしくないに違いない。軽く話した昨日の内容は、冗談を絡めていた。
だからつまり、そういうことなのだろう。足裏に感じるフローリングの冷たさだけがやけにリアルだった。
クリスマス商戦は多忙を極め、閉店時間を2時間以上も上回りながら、終わらない伝票整理の為に残業していた。
坂本が空元気を振り絞って歌うクリスマスソングがバックミュージックとして寂しく店内を流れている。
「世の中は恋人たちの聖夜!!」
妙な調子ハズレのクリスマスソングを歌い終えた坂本が頭のネジを無くしたまま叫ぶ。
「俺たちのクリスマスは年明けかな。」
髪をボサボサにさせた北川は、そんなことを言いながらも休憩時間に奥さんへのプレゼントを購入していた。
「店長、年明けたらニューイヤーです。」
みんなそれぞれに疲れてはいたのだが、まだイベントは終わっていない!!と鼓舞しようと旭のが口を開こうとしたが、その前に坂本が言ってはならないことをつぶやいた。
「俺たちはクリスマスに乗り遅れて、新年も乗り遅れるんですよ。」
真顔である。スンッ、とした顔で認めたくもないことを言うものだから、藤崎は吠えた。
「嫌なこと言ってんじゃねーぞ坂本ォ!!」
藤崎が鋭く抗議するが、所帯を持って5年目なので、新婚の北川と同様にプライベートではイベントごとは強制参加だ。しかし、当の本人はというと、毎回この時期は仕事を理由に渋々逃しているんだよと、何故だか嬉しそうに語っていた。
「北川さんも来年にはお子さん生まれるし、独り身聖夜は旭と坂本だけかぁ…。」
「あ、俺彼女できたんで実質旭さんがオンリーロンリークリスマスっすねぇ!」
「はぁ!?」
いつのまに独身同盟?を裏切っていたのだこの男は!!!思わず振り返る旭と目があった坂本は、処理済み伝票を扇状に広げ勝ち誇った笑みをしていた。
「シングルでジングルだな。」
「藤崎さん上手いこと言わないでください!」
「てか旭はいい人いないの?」
「北川さんまでのらないでください…」
坂本のプライベート情報が更新されてから、完全に矛先は旭に向いた。解せぬ。
おせっかいの藤崎に至っては女の子紹介しようか?などとにやつきながら言ってくる始末だ。これは非常にめんどくさい。
反応を返すのも億劫になり、まとめ終わった分の伝票をゴムで束ね、逃げ道を探した。
「俺なんかより、皆さんのお連れ様にあげるクリスマスプレゼントでも考えたらどうですか。」
苦し紛れに口をついて出た言葉が功を奏したのか、その後は特に話題が戻ることもなく一日が終わった。帰り道、坂本がのたまったシングルでジングル発言が妙に耳に残り、なんとなく悔しくなった。
別に好きでシングルベル鳴らしてるわけじゃねーし、色恋沙汰ともご無沙汰じゃねーし。
「あり?」
ご無沙汰じゃないのは柴崎のおかげであるが、なんだかすごく爛れた関係になってしまったんではないかと思い立つ。
「ヤッて、その次から絡んでない…。」
主に旭が気まずくなったのと、間が悪く柴崎の連公休が重なった為である。
なんだかとっても大人になってしまった。
主に悪い意味で、こんなワンナイトラブをするようになるとは夢にも思っていなかった。
数年前に付き合っていた彼女以来だから、おおよそ3年ぶりの行為だったなとしみじみ振り返る。尻は初めてだったが。
多分このままじゃいけない気がするが、ご機嫌取りもご無沙汰過ぎて何も思い浮かばない。
「まじで一度話し合わねば…。」
イルミネーションはいつまでやっているのか。
別に喧嘩したわけでもないけれど、キラキラした街並みをきっかけに、お誘いがてら柴崎の様子を伺いたいなぁ。
だからできれば柴崎の出勤日まで光っててくれよと、嫌味なくらいデコレーションされた樹木たちを睨みつけた。
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