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旅立ち***8

 はっとして顔を上げれば、一瞬のうちに長い影の数々がマライカたち目掛けて向かい来る。  いったい目の前で何が起きているというのか。  男たちは皆、ジャンビーアを掲げている。彼らは群れを成し、この砂丘では希少種とされる(ヒサーン)に乗り、目にも止まらぬ恐ろしい早さと勢いでこちらへ向かい来る。舞い上がる砂埃と共に地響きにも似た音と男たちの怒号が周囲に轟いた。  彼らは凄まじい速度でマライカたちとの間合いを一気に詰める。  盗賊だ。  それも並大抵の盗賊ではない。世間を騒がせている大盗賊、ハイサムの一味だ。彼らがハイサムだというその証拠に、ラピスラズリの生地に一匹の若い鷲が雄々しく飛翔している旗を掲げている。  名前の由縁であるハイサムとはその名の通り、若い鷲を意味する。  彼らは相手がいかに階級の高い人物であっても一度目をつければ最後、一切の金品をすべて盗む。神さえも恐れない盗賊の一味であった。  彼らの素性を理解したマライカだが、突然の襲撃で逃げ遅れてしまった。  強烈な恐怖と混乱がマライカを襲う。  そんな最中、マライカの花嫁衣装や食料などの一式を運んでいた駱駝ごと置き去りにして、ダールの使用人たちは一目散に逃げて去って行った。  孤立してしまったマライカは、雄々しい陽光に照らされた鋭い切っ先によって視界が塞がれ、恐ろしさのあまり頭が真っ白になってしまった。 《旅立ち・完》

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