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苦痛。***1
Ⅵ
マライカは突き刺すような日差しによって意識が覚醒した。
目を開けると、土壁ばかりが目立つ、殺風景な空間が広がるばかり。自分の家だと言える要素は何ひとつ見当たらなかった。同時に、眠っていた時もたしかにあった鈍い痛みは意識が覚醒するとますますひどくなっていく。
これはどういうことか。
自身を見下ろせば、本来ならば見える筈の肌は、エメラルド色の衣服の間から右の腕と足にかけて包帯が覗いていた。左の手足はまだ傷の状態が良いのか、包帯が巻かれていないものの、それでも硬い何かで掠ったような長い傷痕がついていた。
いったい自分の身に何が起きたというのか。
マライカは半ば混乱状態になりながらベッドに横たえていた上半身を起こした。――瞬間だ。針に突かれたような痛みがこめかみから足の先へと駆け抜ける。
ふいに生まれ出た鋭い痛みに耐えきれず呻けば、二本の細い腕が伸びてきて、マライカの身体をふたたびベッドに倒した。
そこで初めて、マライカはこの殺風景な空間に自分以外の人間がもうひとりいたことを知った。
「だめですよ! まだ起きちゃ!!」
年の頃なら10歳ほどだろうか。くりっとした大きな茶色い目に小さな鼻。身長はマライカよりも頭ふたつ分は低い。健康的な小麦色の肌をした可愛らしい男の子だった。
「君、は――?」
苦痛に顔を歪めながら訊ねるマライカに、少年は目の前にいるマライカを見るなり恭しく頭を下げた。
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