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若き鷲の頭***7
「見張り役にターヘル、ねぇ」
さすがは冷酷と名高いハイサムの頭。彼に見張り役を任せればさぞや人質は恐れ戦くに違いない。
ムジーブは皮肉めいた笑みを口の端に乗せた。
「ダールには、人質が健全だと偽って交渉を図るのは難しいことかい?」
ムジーブが問えば、
「奴に小細工は通用しない」
どうやら我が右腕ムジーブは乗り気ではないらしい。明らかに小馬鹿にしている態度に、ファリスはなぜか苛立った。
「それは経験上で?」
ふたたび訊ねるムジーブに、ファリスはそれっきり黙り込んだ。ムジーブは頭がこれ以上何も語らないことを悟った。彼は軽口を嫌う。ファリスとはそういう男なのだ。
だからこそ、この集落にいる民は彼を慕い、英雄のように崇める。
それはそうだろうとムジーブは思った。なにせここの民にとって、彼は救世主以外の何者でもないのだから。
――にしても、これはなかなか面白くなりそうだ。
ムジーブが酒を含んだ唇が笑みを浮かべていたことを、ファリスが知る由もなかった。
《若き鷲の頭・完》
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