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苦痛。***3
なぜ、この少年はマライカの元にやって来たのだろう。
一見するとあどけない少年は殺人や盗みなどといった汚れは窺えない。ハイサムとは何ら関係のない一般人のように見える。
「君は、あの男にぼくの面倒を視るよう、無理矢理連れて来られたのか?」
ハイサムとはまだあどけないこんな小さな子供さえも連れ去り、脅しているのか。
眉間に皺を寄せ、訝しがるマライカを尻目に、しかしターヘルと名乗った少年はいくらか瞬きを繰り返し、首を傾げる。
「あの男? あ、ファリス様のことですか。むりやりだなんてとんでもありません!!」
ターヘルはマライカの口調に慌てて首を振り、話を続ける。
「ぼくは――いいえ、ぼくらここの民はみんなファリス様のために働けることを光栄に思っているんです」
ぼくをぼくらと言い換えたこの少年は果たしてどこまでが本心なのか。マライカが考えていた答えとはまるっきり正反対の返事が返ってきて、聞き返す言葉に詰まった。
ターヘルの目は、水晶のように澄んだ大きく光輝いている。どうにも嘘をついているようには見えないのだ。それにターヘルの身体はとても健康的で、拷問を強いられているようにも見えなかった。
――ともすれば、彼が口にした言葉は真実なのだろうか。
抵抗するマライカを無理矢理組み敷き、父親の積み荷を奪ったかもしれない盗賊の頭がこの地に住む人々に崇拝されているというのは俄 に信じ難いものがある。
いったいこの集落に住んでいる民たちはどういう経緯でここにいるのか。
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