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 外は雪。雪が降っている。天気予報をすっかり忘れていたのだった。しかし都会にありがちな積もることのない雪で、きっとすぐにやむだろう。パトカーのサイレンが聞こえてくる。大神は煙の匂いを嗅ぎながら全速力で走り、植え込みに飛び込む。木の枝が折れる音で香西の居場所もわかる。  ふたりとも黙ったまま、パルクール競技さながらにコンクリートの壁を乗り越え、退避を続ける。ビルとビルのあいだの細い路地を抜けて、こういう時のために用意されたセーフハウスへ向かう。真新しいビルの隙間に忘れられたように建つ古い民家だ。鍵は香西の指紋認証で開いた。  ふたり同時に中へ入ってスイッチを探す。民家の外見はすべてみせかけで、ありふれたビジネスホテルのような部屋が広がっている。大神は息を吐き、横をみた。香西と目があった。ここへたどり着くまで、ひとことも会話しなかったことに、たったいま気づいた。  バディか。 「息のあった……逃走劇だったな」  香西がつぶやいた。大神は笑いそうになった――まだ逃走の興奮が残っているせいだ。奇妙な高揚感で、体じゅうが昂っている。 「香西」  衝動のままに手をのばし、壁に押しつけてキスをした。  香西は拒まなかった。逆だ。腕が大神の背中にまわり、舌がむこうから差し出される。こうやって興奮を鎮めるのが当然だとでもいうように? ちがう、これも逆だ。香西の肌の匂い――汗の匂いが大神をもっと昂らせた。あの日、猛るおのれを含んだ香西の舌が、今は大神の舌と絡んでいる。腰をおしつけると香西の両手が大神の背中をぐっと締めつけた。  無言のままみつめあったあげく、どちらが先にベッドへ誘ったのか。ようやく暖房が効きはじめた部屋の中で、荒い手つきでおたがいを裸に剥いた。シーツの上で重なりあい、おたがいの中心を擦りあわせながら香西の耳の裏を舐めると、抱いた背中がびくっと反応する。  ハロウィンの翌日、桃色のしみをみつけた耳の下に大神は唇をつけ、強く吸う。おたがいの体液で股間はしっとり濡れていた。香西が両手をのばして探すような身振りをする。大神はベッドサイドにコンドームやシリコンといったセックス用の小道具が用意されているのに驚くが、ふと〈スコレー〉はにここを使うこともあるのかもしれないと思いいたる。  香西は知っていて、慣れている――そう理解しても残念には思わなかった。今はただ、この体が欲しかった。バディの存在を確認するために。  尻の奥を指でおしひらくと香西の唇から長い吐息がもれる。うつぶせになった香西の背中がゆれ、一度大神をふりむいた視線は物足りないと語っている。大神は黙ったまま、くすんだ桃色の割れ目におのれを侵入させる。締めつけられる感覚に一気に持っていかれそうなのをこらえる。  腰を前に進めたとたん、香西が叫んだ。 「あっ……おおがみ……」  はじめて聞く甘い響きだ。包みこまれ、締めつけられる快楽に陶然としながら、大神は何度も腰をうちつける。胸を香西の背中におしつけ、唇でうなじをなぞる。 「はっ、ああっ、あんっ、ああああ……」  甘い声をききながら大神は射精の瞬間へ駆けのぼった。香西が大きく腰をうねらせる。 「大神、ああ、いく――」  ふたりとも息をついている。いちど体を離し、仰向けになった香西の上に重なって、もう一度キスをする。香西の唇に舌をさしこみ、歯の裏側を撫でるように吸うと、背中を両腕でしめつけられた。 「大神……」 「俺たちは……相棒(バディ)だ」大神はやっとささやく。「そうだな?」 「ああ……」  香西の睫毛がかすかにふるえた。大神は肩のくぼみにひたいをおしつけ、裸の背中にまわされた香西の両手を感じている。温かかった。湿ったシーツからはふたりの精の匂いがする。 (おわり)

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